「トンチン年金」は、17世紀にその仕組みを考案したイタリア人のロレンツォ・トンティ氏にちなんで名づけられたものです。この年金の加入者は、生きている間は年金をもらえますが、亡くなってしまうとその人の年金原資は、他の加入者の年金として使われ、遺族に対しては何も支払われません。

 このトンチン年金は、生きている間は年金をもらえるので、公的年金と同様に一生涯の安心を与えてくれるものです。

 下の図は、ある生命保険会社が販売しているトンチン年金の例を示したものです。

 50歳の男性の場合は、50歳~70歳の20年間で約1200万円、女性の場合は約1500万円の保険料を払い、70歳から毎年60万円の終身年金を受け取ります。万一70歳前に亡くなってしまうと、それまで支払った保険料を大きく下回る解約払戻金が支払われます。年金受給開始後に亡くなった場合は、5年間の保証期間(300万円分)はありますが、それ以降の年金は支払われません。つまり、80歳で亡くなってしまうと、年金の受取総額は600万円と、支払った保険料を大きく下回ってしまうことになります。

[画像のクリックで拡大表示]

トンチン年金 vs 公的年金の繰り下げ

 先に述べた通り、トンチン年金の保険料はかなり高額です。そうすると、トンチン年金の保険料を払う代わりに、これを65歳から70歳までの生活費に充当して、70歳まで公的年金の繰り下げをする、というプランも選択肢の一つになるでしょう。

 そこで、サラリーマンの夫と専業主婦の妻という世帯を例にして、両者の比較をしてみたいと思います。夫婦は同い年として、トンチン年金の被保険者となるのは、より長生きする可能性が高く、公的年金が老齢基礎年金(いわゆる1階部分)だけで、十分にない妻とします。下の表は両者のプランを比較したものです。

[画像のクリックで拡大表示]

 それぞれのプランでは、70歳までは両者ともほぼ同じようなキャッシュフローとなります。65歳~70歳の間は共に生活費がちょっと苦しいので、働くなどして多少の収入を得る必要があるかもしれません。

次ページ 公的年金はインフレに対応する