「人生100年時代」と呼ばれる昨今。長~いライフプランを考える上で、お金との付き合い方はますます重要になります。投資信託、保険、年金そしてNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)などなど、身の回りに様々な金融商品やそれを活用する制度があふれています。しかし、どれも仕組みが難しいと感じていませんか。
そこでファイナンシャルプランナー(FP)である高橋義憲さんが、あなたの「味方」となってお金の「見方」を丁寧に解説していきます。金融商品の販売による手数料はもらわずに、金融機関から独立した立場でアドバイスを提供する、独立系FPとして活動している高橋さん。だからこそ、中立的な立場での助言を得意としています。
初回に取りあげるのは「生命保険」。自分に何かあったとき、残された家族のために加入している人も多いと思いますが、高橋さん、何が問題なのでしょうか?
皆さん、こんにちは。ファイナンシャルプランナー(FP)の高橋義憲です。独立系FPとして、皆さんの「味方」になって、難しいおカネの話をできるだけ分かりやすく解説していきます。よろしくお願いいたします。
初回に取りあげるのは生命保険です。「人生で2番目に高い買い物」とも言われますが、皆さんはどのように選んでいらっしゃいますか?
一般的に金融商品に関しては、販売する側と顧客の間にある情報格差のために、顧客の知らない間に不利な商品や契約をしてしまうという問題点が指摘されています。特にこのような傾向は、生命保険について顕著ではないかと思っています。それは、生命保険が比較しにくい商品だからです。今回は生命保険を検討する場合、比較の必要性とその方法について説明します。
1.保険料のしくみ、還元率について
下のイラストを見て下さい、競馬、宝くじ、そして保険についてのある数字を示しています。その数字とは「還元率」です。つまり、参加者から集めたお金の何%を当選者(たち)に還元しているか、ということを表しています。
ご覧のとおり、競馬と宝くじについては還元率が公表されていますが、保険に関しては、これがはっきりと分かりません。還元率を知ることによって、私たちは次のように比較や意思決定をすることができます。
(Aさん)「宝くじの還元率は競馬と比べてとても低くて、割に合わない。だからオレは宝くじなんて買わない」
(Bさん)「『年末ジャンボ宝くじ』のように、宝くじは200~300円で買えるクジが何億円になるかもしれないという夢がある。収益金の一部は公共事業に使われるって言うし、ワタシは宝くじの還元率が低くても構わない」
一方、保険については、残念ながら還元率が分からないので、このような比較、検討をすることはできません。
保険を選ぶときに比較は不要か?
生命保険文化センターという生命保険事業に関する調査・研究機関が公表しているアンケート調査によると、民間保険に加入した人のうち、7割近い人が加入時に商品比較をしなかったと回答しています。
私はこの結果を見た時、正直に驚きました。人生で2番目に高い買い物と言われる生命保険なのに、なぜ他社の似たような商品と比較しないのだろうか、と。でも、よくよく考えると「やむを得ないのかもしれない」とも思いました。なぜなら、生命保険会社は、私たちが比較をできないように、還元率などのデータを公表していないからです。
このような状況は、金融庁が求める「顧客本位の業務運営」に反するものであり、早急に改善を求めなければなりません。冒頭にお話しした還元率というものは、生命保険については保険料の内訳として見ることができます。
保険料の内訳とは?
私たちが支払う保険料は、下の図のとおり2つの要素、つまり、純保険料と付加保険料によって成り立っています。
この保険料の内訳がわかると、顧客にとっては次のようなメリットがあります。
保険料とその対価となるサービスの内容が明確になる
下のイラストを見て下さい。イラストの男性は、インターネットの生命保険会社と大手の生命保険会社の医療保険を比較しています。医療保険は、各社保障内容がピタリと同じではないので、単純な保険料の比較だけでは、どちらが良いのか分かりづらいです。でも、保険料の内訳が分かれば、イラストの例のように、大手生保の方が手厚いアフターフォローが期待され、その分付加保険料が高くなっているということが分かります。
生命保険会社の価格競争を促進する
また、下のイラストを見て下さい。イラストの女性は、大手のB生命とC生命の医療保険を比較しています。二つとも大手の生保なので、アフターフォローに大きな違いはないと思いつつ、Cの方がちょっと保障内容は手厚い分、保険料が高くなっている。けれど、その差が妥当なのか判断は難しいと悩んでいます。
でも、内訳が分かれば、BとCの付加保険料の比率は、それぞれ33%と38%となるので、Bの方が顧客にとっては無駄(=付加保険料)が少ない保険と判断することができます。また、CはBの価格を見て、付加保険料を38%から33%に下げることを検討するかもしれません。
このように、保険料の内訳が分かれば、私たちが保険を選ぶときの一つの判断材料になり、さらに生命保険会社間の価格競争を促進することも期待されるので、いいことばかりです。
しかし、残念ながら保険料の内訳を公表しているのは、2018年1月末現在、ライフネット生命だけです。このような状況になっている理由の一つは、顧客である私たちが内訳の情報公開を要求していないからだと思います。大手の生命保険会社とて、顧客から強い要求があれば開示に踏み切るかもしれません。私たちは、自分の契約している保険や加入を検討している保険の保険料の内訳を、保険会社や代理店の営業職員に聞いていくべきです!
保険金額と保険料は比例するのか?
ここで、保険料の内訳を意識することによって、保険料のことがより良く分かる例をお示ししたいと思います。
下の表はA生命とB生命の2社の終身保険の保険料を比較したものです。A生命の方がB生命よりも、保険料が高いですね。しかし、ここで私が注目するのは単純な保険料の大小ではありません。
終身保険の月額保険料比較(30歳男性、60歳払済)
保険金額 |
A生命 |
B生命 |
200万円 |
5,504円 |
4,544円 |
300万円 |
8,256円 |
6,699円 |
400万円 |
11,008円 |
8,932円 |
500万円 |
13,760円 |
10,920円 |
A生命の保険料は、保険金額ときっちりと比例関係にあります。つまり、保険金額300万円の保険料は、保険金額200万円の保険料の1.5倍、あるいは、保険金額400万円の保険料は保険金額200万円の保険料の2倍となっています。
一方、B生命の方は、保険金額と保険料が比例していません。例えば、保険金額400万円の保険料は、保険金額200万円の保険料を2倍したものよりも、小さくなっています。
このA生命とB生命の違いには、どのような意味があるのでしょうか。ここで、先に説明した保険料の内訳、つまり純保険料と付加保険料に分けて考えてみましょう。
純保険料は保険金の給付に充てられるものなので、保険金額に比例します。一方、付加保険料の方は保険会社の経費に充てられるものですが、保険金額と比例するものではありません。なぜなら、保険会社の経費には営業職員の報酬における歩合制部分であるとか、代理店に支払う手数料のように保険金額にある程度比例する部分もありますが、保険契約に関する事務コストのように、保険金額の大小には関係しない部分もあると考えられるからです。
そうすると、B生命の方が、保険料が安いということだけでなく、保険金額との関係で、理にかなった保険料の設定になっていると言えるでしょう。また、保障内容が同じような保険に二つ以上加入するよりも、一つにまとめて加入する方が、保険料の面では効率が良いということも分かるでしょう。
このように、保険料の内訳を意識することによって、色んなことが見えてくるということが理解していただけると思います。
2.死亡保障に適した保険は掛捨て型か貯蓄型か
次に、死亡保障に適した保険は掛捨て型(死亡定期保険)か貯蓄型(終身保険)というテーマについて考えてみたいと思います。まずは、生命保険文化センターによる保険加入者に関するアンケート調査を見てみましょう。
最初は、保険の加入目的です。回答が多いのは、「医療費や入院費のため」と「万一のときの家族の生活保障のため」です。後者については、一家の大黒柱が死亡したり、病気やケガで就労不能になったりした場合のためと考えられます。
出所:生命保険文化センター「平成27年度生命保険に関する全国実態調査」
次に、加入した保険の種類です。終身保険と医療保険に加入している人が多いようです。
出所:生命保険文化センター「平成27年度生命保険に関する全国実態調査」
以上2つの調査結果から、保険の加入目的と加入した保険の種類には、次のような関係があると推測されます。
万一の時の家族の生活保障のため → 終身保険
医療費や入院費のため → 医療保険
さて、ここで今回のテーマである死亡保障に適した保険は掛捨て型か貯蓄型かということについて考えてみたいと思います。上の調査の結果からは、多くの人が死亡保障として終身保険を選択していると推測できますが、その選択は正しかったのでしょうか?
終身保険 vs 代替プラン
これまでメディアやネットの記事などで、死亡保障に関して掛捨て型と貯蓄型のどちらが良いかという比較を見た方も多いと思いますが、今回はその優劣がはっきりとわかる形でお見せしたいと思います。
下のように終身保険と、死亡定期保険と積み立てを組み合わせた代替プランを比較します。かかる費用はいずれも毎月10,920円で60歳まで支払うことになります。
下のグラフは30歳から始めて、ある年齢で死亡した場合に、遺族に残る金額を比較したものです。終身保険の場合は何歳で死亡しても、保険金は500万円で一定です。これに対して、代替プランは積立金の運用利回りによって金額が異なりますが、ここでは運用利回り0%、1%、2%の3つのケースを入れました。
終身保険と代替プランを比較すると、以下のようにまとめることができます。
- ・60歳までは代替プランの方が、常に終身保険を上回る金額を遺族に残すことができます。運用利回りが0%の場合でも、50歳で亡くなった場合は233万円、60歳直前で亡くなった場合は349万円の差がつきます。運用利回りが2%の場合だと、それぞれ286万円、478万円の差がつきます。
- ・60歳以降については、代替プランの運用利回りによって優劣が異なります。運用利回りが0%の場合は終身保険の方が151万円上回りますが、運用利回りが2%だと代替プランの方が概ね上回り、80歳で死亡した場合は代替プランの方が211万円多くなります。
以上の比較分析により、皆さんは終身保険と代替プランのどちらが「万一のときの家族の生活保障のため」という目的に合っていると思いますか?
言うまでもなく、働き盛りの大黒柱の死亡保障に適しているのは、代替プランの方です。間違っても、終身保険を選ばないでください!
最初に紹介した保険加入者へのアンケート調査の中には、何(あるいは誰)を通じて加入したかという質問もありました。加入者の大半は、保険会社の営業職員か銀行、乗合代理店の窓口と回答しています。つまり、加入者は終身保険の方が万一のときの家族の生活保障のためという目的に適しているというアドバイスを受けたのではないかと推測されます。
これでは、保険販売の現場では顧客の目的に適した保険商品が勧められていないのではないか、という疑念が湧いてきますね。それでは、生存し続けて解約返戻金を受けるケースではどうでしょう。
上のグラフによる比較をまとめると、以下のようになります。
- ・60歳までは終身保険の解約返戻金が低く抑えられているので、代替プランの金額の方が多くなります。
- ・60歳以降については、運用利回りが0%だと終身保険の方が上回りますが、運用利回りが2%だと代替プランの方が上回ります。
代替プランは、運用利回りによって受け取る金額が変わりますが、20年から30年といった長期で積立投資する場合は、利回りの2%という水準は妥当というか、むしろ保守的ともいえるものです。したがって、代替プランの方が総じて終身保険を上回る金額を受け取ることができると言えるでしょう。
終身保険には、相続対策で活用できるという利点はありますが、30~40歳といった現役世代の時代から相続対策を考える必要のある人は、ごく一握りではないでしょうか。
したがって、現在のような超低金利の市場環境においては、現役世代の死亡保障として適しているのは、貯蓄型の終身保険ではなく、掛捨ての定期保険(と積立ての組合せ)であるといえるでしょう。また、終身保険の中には、いろんな特約が付いていて、代替プランと比較しづらいものがあるかもしれません。その場合は、営業職員に終身保険だけの主契約部分の保険料を出してもらい、それを代替プランと比較すれば良いと思います。
3.万一の保障と資産形成の両方を兼ね備えた変額保険の問題点
最後に、私が一番問題があると考えている変額保険(有期型)という商品について考えてみます。この変額保険は、万一の保障と資産形成の両方を兼ね備えた保険商品として販売されています。下の図は変額保険の商品特性を説明したものです。
簡単に説明すると、毎月の保険料から死亡保障等の費用を控除した後、これを投資信託で運用して、その運用成績によって満期保険金額が決まるというものです。満期前に死亡した場合は、死亡保険金が支払われますが、この死亡保険金には最低保証額(基本保険金額)が設定されています。
このような変額保険についても、これまで問題点が指摘されていましたが、それは「死亡保障の費用が控除されているので、資産形成の効率は良くない」というものが多かったのではないかと思います。これには一理ありますが、他方でもっと大きな問題点が指摘されてきませんでした。
それは、万一の保障に関する部分です。以下に具体例を挙げて見てみましょう。
変額保険 vs 代替プラン
これも代替プランを使って比較、分析してみます。下のような、変額保険と代替プランを考えます。いずれも、30歳から60歳までの30年間に毎月2万円を払う仕組みのものです。
今回は、満期まで生存した場合から見てみます。変額保険の運用対象となる投資信託は、国内外の株式と債券に投資するものがそろっているので、代替プランで行う投資信託の積み立て投資と運用利回りの差は出ないものとして、いずれも3%とします。
上のグラフで比較した結果のポイントをまとめると以下のようになります。
- ・60歳までの期間を通じて、代替プランの方が常に変額保険を上回っている。60歳の満期においては、変額保険の満期保険金は901万円であるのに対して、代替プランは1038万円である。
- ・変額保険では、最初の10年間で解約すると解約控除がかかるために、解約返戻金は支払った保険料の累計額を大きく下回ることになる。
上の2点から言えることは、やはり変額保険は資産形成の点では不利だなぁ、ということでしょうか。では、死亡保障の方はどうでしょうか。
上のグラフは、60歳までに死亡した場合に遺族に残る金額を比較したものです。その優劣は一目瞭然です。変額保険は901万円で一定であるのに対して、代替プランでは定期保険の900万円に加えて毎月17,808円の積立があるので、年を経るほど両者の差が大きくなっています。60歳の直前で死亡した場合は、代替プランでは1938万円が遺族に残ります。その差は、なんと1000万円です!
上の二つのケースを比較、分析して言えることは、変額保険は資産形成の目的にはちょっと適していないが、死亡保障の目的には著しく適していない、いうことでしょうか。いずれにせよ、代替プランではなく、変額保険を選択する経済的合理性は全くないといえます。
手数料だけでは分からない変額保険の問題点
変額保険を販売する時に、保険会社や代理店の営業職員はどのような説明をしているのでしょう。おそらく、「変額保険の保険料から諸費用を(例えば)5%控除した金額が、投資信託の積み立て投資に充当されるので、保険料と同じ金額を積み立て投資する場合と比較すると分が悪いけど、万一の死亡保障がついているので、その分はお得ですよ」なんて曖昧な説明でごまかしているのではないかと思います。
確かに、諸費用について説明されているので、顧客本位の業務運営における原則の手数料の明確化という部分は形式的に満たしていると言えるのかもしれませんが、顧客が本当に必要な情報は、代替プランとの比較のようなものではないでしょうか。
上のグラフは、今回例に取り上げたB社の変額保険の契約件数残高の推移を示しています。最近は順調に契約件数を伸ばして、2017年度上期では30万件を超えており、一件当たりの保険金額は1000万円程です。死亡率のデータから推測すると1万~2万件で死亡保険金が支払われることになりますが、残念ながらその金額は、代替プランを実行した場合に比べて何百万円も少ないものになりそうです。また、B社の変額保険が販売好調であることに追随して、同じような変額保険の販売を開始した保険会社もあります。
皆さん、変額保険には十分気を付けて下さい!
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