Y:相当の迫力だそうですね。一度行ってみたいです。でも、騒音が問題になっていませんでしたっけ。

松浦:ええ、近隣で「騒音がうるさい」という反対運動があるそうです。でも、なぜうるさく感じるかというと、それが自分と関係ないからなんですよ。どんな選手がどういう目標を持ち、どんな思いで飛んでいるかが分かると、騒音の向こう側にいる誰かが見えてきて、騒音は感情移入の対象になるんです。もちろん、反対している方に決して強制はできません。一方で、「知って」「楽しむ」ことで、単なる「うるさい」「あっちいけ」とは違う世界が開けるんですよ。

 あるいは、子どもと一緒に模型飛行機や、現行の規制には引っかからない小さなドローンを飛ばしてみるというのもいいです。とにかく、新しいものが出て来た時に、「怖い」「危ない」じゃなくて、「面白そう」「やってみよう」と思う感性を磨いて行けたらな、と考えるんですよ。

Y:そういえば今年の春、八谷和彦さんの「メーヴェ」ことM-02Jのテストフライトに大学生と中学生の子供を連れて行きましたよ。「本当に人が乗って飛ぶんだ」と、ぽかーんとしてました(このプロジェクトの詳細はこちら)。

松浦:ああ、すごくいいじゃないですか。

八谷さんを乗せたM-02Jがジェットエンジンの音を響かせて自力で離陸し、高度を上げていく姿に子供たちは口あんぐり。旋回して着陸するまでじっと見守っていました。手持ちの古いスマホで撮るとこんな大きさになってしまいますが、見ている実感には近いかもしれません(Y)。
八谷さんを乗せたM-02Jがジェットエンジンの音を響かせて自力で離陸し、高度を上げていく姿に子供たちは口あんぐり。旋回して着陸するまでじっと見守っていました。手持ちの古いスマホで撮るとこんな大きさになってしまいますが、見ている実感には近いかもしれません(Y)。
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こちらは公式写真(当日のものではありません)。
こちらは公式写真(当日のものではありません)。

Y:その日の夕方に、中学生の娘は「動画撮ったよね? マンションにいる友達に見せたい!」と、わたしのiPadをぶんどって行きました。大学生の息子の方も、飛ぶ姿をスマホの待ち受けにしてたなあ。

「失敗」に対してどう振る舞うか

Y:とはいえ、新しいものには危険がつきもの、というのも事実ですよね。

松浦:そう、次に出てくるのは「万が一にも事故が起きてしまったらどうするか」なんです。実のところ私たち日本人の事故に対する対応は、からっきしです。ド下手です。「責任があるのは誰だ、出てこい」「あやまれ」「弁償しろ」に偏っている。その結果「やめてしまえ」「二度とやるな」「そんなことできないように法律で規制しろ」となってしまいがちなんです。

Y:記事が炎上した経験があるので、あのプレッシャーは他人事ではなく分かります。あれを喰らうと、もうとにかく謝って引っ込もう、となるのは分かります。実際、地位ある人がずらっと並んで頭を下げるのが、すっかり普通になってしまいましたものね。

松浦:でも、頭下げさせて、溜飲は下がっても、何も問題は解決しないでしょ。本当に大切なのは「二度と同じ事故を起こさないためにはどうするか」なんです。「やめちまえ」というのは一番悪い対応です。未来を塞いでしまうのだから。

Y:あー、思い出しました。自動車レースのF1の日本グランプリ。1976年に始まってますが、翌1977年にレース車から外れたタイヤが観客に当たるという死亡事故が発生して、その後1987年まで10年間開催できなかったってことがありましたっけ。

松浦:昔からある「危ないからやめろ」の対応ですよね。でも本当に大切なのは「二度とそんな事故を起こさないためには何をすべきか」と考えて対策を実行することなんです。77年のF1の事故は立ち入り禁止区域に観客が入り込んでいたのが原因でした。だから本来は観客が入り込めない仕組みを作って、翌年も開催すべきだったんです。

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