松浦:大切なのは、そういう表に出てくる潮流だけじゃないということです。これら新たなモビリティの根底にはムーアの法則が支えて来た半導体技術の急速な進歩と、電池の大容量化や炭素系複合材料による軽量化に代表される材料の革新があります。半導体が進歩して、センサーを駆使した制御が高精度化し、材料が良くなり、しかも3Dプリンターのようなデジタル技術を駆使した新たな工作機械が一般化して、今まででは考えもつかなかったようなモビリティが出現しつつあるわけです。

 一言でまとめると20世紀からの一大潮流である「デジタル化」が情報通信だけでなく、モビリティに及びつつあるんです。

Y:21世紀の新しい「デジタル・モビリティ」というわけですか。

松浦:そして、みんなの「新しいものは怖い」と官僚の「利権が欲しい」が手を取り合って形成してきた日本の社会制度では、これら新技術を前に進めるために必須の、多種多様かつ急速な試行錯誤を行うことができない――これこそが、私がオシコシでの見聞で感じた、最大の焦燥感です。

 どんな技術も出始めは活発な試行錯誤が必須です。でも日本の制度だとその試行錯誤が非常にやりにくくなっています。

 かつては制度そのものが存在しないから試行錯誤が容易だったんです。だから日本の自動車産業は成長できたといってもいいんじゃないかと思います。最盛期の昭和30年代には日本にはバイクは200社、自動車は30社もメーカーがありました。日本には旺盛なベンチャー魂があったんですよ。それが市場の淘汰を経て、生き残ったメーカーが世界に出て行ったんです。でも、今はそういう状況が制度的に作れなくなっています。

 これは本当にまずいです。このままいくと日本はことモビリティに関して、技術立国どころか、世界から取り残された懐古列島になっちゃうでしょう。それも技術ややる気がないからではなく、社会制度が悪い、という理由からです。

「恐れる」だけでなく「楽しむ」ことも覚えたい

Y:じゃあ松浦さんは、どうすればいいと考えているんですか。

松浦:まず我々のほうは、「恐れる」ことだけでなく、「楽しむ」ことを覚えるようにできないかな、と思っています。

Y:具体的にはなんだろう。例えば、自衛隊の基地開放日に遊びに行ってデモフライトを楽しむ……というようなことですか。

松浦:各地のサーキットで開催されている草レースでもいいし、航空機だと、千葉市で毎年6月に開催されているレッドブル・エアレースなんかもいいですよね。

今年6月に開催されたレッドブル・エアレース千葉大会の模様。レッドブル・エアレースは世界各国で、年間8戦が開催されている。地表、あるいは水上に設置されたパイロンの間を競技機が飛行してタイムを競う。現在、日本からは室屋義秀選手が年間を通じて参戦しており、2017年には世界チャンピオンのタイトルを獲得した。
今年6月に開催されたレッドブル・エアレース千葉大会の模様。レッドブル・エアレースは世界各国で、年間8戦が開催されている。地表、あるいは水上に設置されたパイロンの間を競技機が飛行してタイムを競う。現在、日本からは室屋義秀選手が年間を通じて参戦しており、2017年には世界チャンピオンのタイトルを獲得した。

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