日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が今年7月に、航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアムという組織を立ち上げた。「社会実装に向けた将来ビジョンとロードマップの共有」「革新的技術を創出するための挑戦的研究開発」「国内産業界のイニシアチブを醸成するための枠組み作り」と、戦略から産業化までの総合的な目標を打ち出している。

 経済産業省と国土交通省も共同で「空の移動革命に向けた官民協議会」という審議会を立ち上げ、8月29日に第1回会合を開催した。設立趣旨には「いわゆる“空飛ぶクルマ”の実現」という文言が入り、官も将来課題として電動航空機によるモビリティの劇的な変化の可能性に気が付いたことが分かる。

 が、いかんせん日本は、実機を飛ばした実績が決定的に足りない。

 JAXAの既存モーターグライダーを改造した初の電動実験機を初飛行させたのはやっと2014年になってからなのである。研究も実用も、実機を作り、飛ばした経験の上に結実するものだ。そして、全く新しい分野が立ち上がる時に、なによりも必要なのは多種多様な参入者による試行錯誤である。

補助金もいいが、まず自分の力で飛べる環境を

 オシコシでは、航空機の電動化に、NASAからベンチャー、さらにはアマチュアのホームビルダーに至るまでが積極的に新しいアイデアを出し、着実に実現している様子を展示していた。今回、AirVenture Oshkoshで私が感じたのは、産業は産業のみで成立するものではないということだった。産業と市場だけでも足りない。志を抱いた若い人が育ち、自由な意志で活躍できる環境がなくてはいけない。

 米国でそのような環境を提供しているのは、ホームビルト機の世界であり、それを支える法制度・社会制度である。

 おそらく、いくらコンソーシアムを立ち上げ、いつものように審議会を開催し、補助金でナショナルプロジェクトを動かしても、日本で新たなモビリティとしての航空機が根付くことは難しいだろう。

 必要なのは、自由な意志がアイデアを持ち寄って試行錯誤を繰り返すことができる社会環境なのである。

 どんなに小さくても、しょぼくてもいい。自分の飛行機を自分で設計して自分で作り、自分で飛ぶところから始めよう。

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