かつての羽田空港ほどもある巨大スペースで1週間にわたって開催される巨大イベントをどう形容すればいいのか。さきほどコミケに例えたが、実はそれだけではない。
EAA AirVenture Oshkoshは――まず、自作航空機の同好の士が集まってテントに寝泊まりして楽しむ航空機のサマー・ロック・フェスティバルである。もちろん航空機に関する全てを売っている航空機のコミケットであり、同時に様々な航空関連メーカーが一堂に集う航空宇宙展でもある。航空機の自作方法を学ぶことができる講習会であり、航空の未来に関する最新情報を仕入れることができる航空宇宙系学会でもある。さらには軍やNASAなどの機材を見学できる一般公開・基地祭でもあり、次々に飛ぶきらびやかな展示飛行や、体験搭乗を楽しむことができる航空ページェントでもある。ここにはレジャー・スポーツから、産業、技術開発に至るまでの航空のすべてがある。
そして、なによりも重要なことは、ここに集まってくる人々のかなりの部分が、「自分の飛行機を自分で作る」ことに少なくともいくらかの興味を持っているということだ。「自分で作る」――航空のみならず、産業にとっての基本中の基本を体現している人が、それだけたくさんいるということである。
ショーは航空産業を支える、“ぶ厚い人材層”の象徴である
と、同時に、私はオシコシで気が付いた。
この事実を航空産業の側から見ると、オシコシに集うすべての人々は顧客であり、同時に人材供給源なのだ。航空機に対する高いモチベーションを持つぶ厚い人材層が、EAAの「自分の乗る飛行機は、自分で作る」という理念と、理念の上に展開している活動によって形成されているということである。

これこそが、冒頭で「日本の航空産業振興策に欠けているもの」としたものだ。産業を支えるぶ厚い人材の裾野と、裾野を更にぶ厚くしていく活動だ。社会の中に幅広い興味を喚起し、技術と技量を蓄積せずに、産業振興策としてメーカーに補助金をつけても、それだけでは航空産業は育成できない。
米国で世界一の航空産業が成立した背景には、明らかに「自作航空機」と「飛行機の自作と飛行を楽しむ多数の人々」が存在する。

では、このような巨大エアショーを開催できるだけのパワーを持つホームビルト機という分野は、どのような経緯を経て成立し、アメリカ社会に定着したのだろうか。
(次回に続く)
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