松浦:ついでにといっては申し訳ないのですが、せっかく四戸さんから話をお聞きするチャンスなので、MRJや日本の航空産業から離れたテーマについても、質問してしまいましょう。
私には、空を飛ぶ道具がものすごい変革期に来ているんじゃないかという気がするんです。具体的には電動モーターとバッテリー、そして制御です。
ドローンは、今や実用に使われるようになりつつあります。4つから8つのプロペラを上に向けて飛ぶことが、電動モーターと制御の技術でできるようになったからです。
四戸:マルチコプターというやつですね。プロペラ4つならクワッドコプター、8つならオクタコプター……。
松浦:そこで世界中を見渡してみると、人が乗れる電動のマルチコプターを作って飛ぼうとする計画がどんどん出ています。YouTubeを見ると彼らの動画がたくさんあります。それこそ、搭乗者の腰のあたりでプロペラを回すような危ない機体もあって、「ひとつ間違ったら胴体切断だから止めろ」と思ったりもしますが。あれ、四戸さんはどのように見ておられますか。
バッテリーと制御技術が飛行機械を変革する
四戸:おっしゃる通りだと思います。きっかけはまずバッテリーの進歩ですね。バッテリーのエネルギー密度が高くなって、より軽く、より大容量になりました。この結果、電動で空を飛ぶことが現実的になってきたわけです。
松浦:30年前にラジコンの模型飛行機で起きたことと同じパターンですよね。それまでエンジン機だったところに、バッテリーの進歩で電動モーターが使えるようになり、はるかに扱いやすいものだから、ラジコン機の電動化が一気に進みました。
今回はバッテリーに加えて、もう一つの技術要素があります。制御です。制御技術の進歩でクルマの自動運転が出てきたわけですが、自動運転は、実は地上よりも空の方がはるかにやりやすい。
四戸:障害物がないですからね。自動運転の無人航空機は区分けされた空域、つまり3次元のブロックの中を、厳密に外れることなく飛行できます。
松浦:今や、ドバイでは警察用に有人マルチコプターを試験的に導入しようとしているじゃないですか。ひょっとしたら電動モーターと自動運転を組み合わせた飛行機械は、人間のモビリティ、動くための道具の革命になるんじゃないでしょうか。飛行機という機械の概念自体がひっくり返るかもしれない。
四戸:そうですね。ただし、2乗3乗の法則を皆さん失念されています。
編集Y:なんでしたっけ……。
松浦:面積は寸法の2乗に比例して大きくなるけれども、重量は3乗に比例して大きくなるという法則ですよね。マルチコプターも人が乗るほど大きくなると、成立しにくくなるということですか。
四戸:今話題になっている、無人で宅配便を配達するとか、上空から無人で交通違反車両を監視するといった用途に使おうとしているマルチコプターは、みな小さいですよね。積むのは比較的軽いカメラとか宅配の荷物などで、人間という重い荷物を積む必要はありません。マルチコプターはプロペラの推進力で浮上します。人を積むために大型化すると2乗3乗則でどんどん重くなりますから、大きくて重い機体ほど高出力のモーターと大容量のバッテリーが必要になります。
では、なぜドローンでマルチコプターがここまで流行したかというと、松浦さんの言う通り電動モーターの制御が容易になったからです。
ドローン:無人航空機の総称。英語のdroneはハチの羽音のことで、ブンブンと音を立てて飛ぶことから無人航空機もドローンと呼ぶようになった。
マルチコプター:複数、通常は4つ以上のプロペラを上に向け、下方に吹き付ける空気の流れで浮上する航空機の総称。
回転翼とプロペラ、そしてサイクリックピッチコントロール
Y:人間の移動手段として使うには、2乗3乗則があるからモーターとバッテリーでは力不足、ということなんでしょうか。
四戸:現状ではその通りなんですが、もう一つ大きな問題があります。マルチコプターはプロペラを上に向けて浮上していますよね。マルチコプターとヘリコプターの違いって分かりますか。
Y:プロペラの数ですか。
四戸:ヘリコプターの上についているのはプロペラではないです。回転翼です。ヘリのことは日本語で回転翼機というじゃないですか。もっと具体的に言うとプロペラは連続的にねじれていますよね。ヘリの回転翼はねじれていません。あれは回っている翼なんです。
Y:……そういえば、そうですね。じゃ、マルチコプターは回転翼じゃなくて、プロペラなんですか。

四戸:ヘリコプターもマルチコプターも回転面に平行に飛びます。ところがマルチコプターの場合は、この飛び方は非常に非効率的なんです。
Y:水平飛行が苦手、なぜでしょう。
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