まず4分の3の試験機を開発して飛行試験を行うべきだった

松浦:そういえば、以前四戸さんから「MRJのスケジュールは危ないかも」という話をお聞きした時、「最初に実機の4分の3の試験機を作って飛行試験をするべきだ」と話してましたよね。

四戸:はい。

Y:その心は。

四戸:模型の最大のメリットは、できることとできないことを低コストで確実に判断できることです。「4分の3」というと、「実機を開発するのと大差ないじゃないか」と思われるかもしれませんけれど、体積にすると3乗で、64分の27ですから、大体40%ぐらいになります。すると作るのがぐっと楽になるし安くもなる。しかも寸法はさほど小さくなっていないから、空気の粘性と圧縮性についてはほぼ実機並みの試験が可能になるんです。4分の3が最適かどうかは別途検討が必要ですけれど、実機開発に入る前に、たとえ機体の一部分だけでもいいから、実際に作って飛ばしてみるべきだったんです。

松浦:関連して思い出すのは、ボーイングは最初のジェット旅客機「707」を開発するにあたって、まず自腹で「ダッシュ80」という試験機を作って飛ばしていますよね。

四戸:そうですね。

松浦:ボーイングはB-47という後退翼を装備した革新的なジェット爆撃機を国のお金で開発して、それから同じく後退翼を使った旅客機の707の開発に進むんですが、B-47の経験があったにもかかわらず、最初のジェット旅客機である707ではまず試験機を作って、1回開発のステップを刻むということをやったわけです。

四戸:4分の3の試作の話をすると大体「何をばかげた話を……」という反応が返るのが常です。もちろん一発で設計を決められる実力があるなら不要なプロセスです。しかしザックリと作ってみると、空力にも構造にもだいぶ実感が湧いてくるものなんですよ。

 ただし、これをやるには条件があります。短時間低予算でやれなければ意味がないです。そのためには、設計する者が自ら手を動かして、自分で機体を作ることです。メーカーに打診して見積もりを取って予算を申請して、仕様を出して図面を依頼して、試作業者に発注して、出戻って……とかやっていたら時間がかかりすぎます。設計者は同時に、手が動く必要があるんです。

 もし「ひと月で人の乗る軽飛行機を創れ」と言われたら、欧米のメーカーの技術者は面白がって作るでしょうね。旅客機を作れる技術者は、間違いなく楽しんで軽飛行機が作れる人達です。多分ここでも、子どもの頃からの模型飛行機の製作経験が効いてくるんだと思います。

 そしてもうひとつ、縮小した試作機を飛ばすに当たり、実用を目指さない純粋な試作機、という想定が日本の航空法にはないんですよ。

松浦:ここでも航空法ですか。

ダッシュ80:正式名称はボーイング367-80。ボーイングが初の四発ジェット旅客機707を開発するに当たって先行して飛行させた試験機。1954年初飛行。この時期、ジェット旅客機はまだ時期尚早で、ターボプロップ機の時代が来ると思われていた。しかしボーイング社は一気にジェット旅客機の時代が来ると予想し、試験機を飛ばしてデータを取得すると同時に、カスタマーである航空会社にジェット旅客機の可能性をアピールしようと考えた。開発にかかった1600万ドルはすべて同社の自社資金であった。ジョー・サッターは自伝でこの投資を「失敗すれば後がない一発勝負」と形容している。現在同機は、新しい時代を切り拓いた記念碑的航空機として、スミソニアン航空宇宙博物館別館に展示されている。

ボーイング367-80(画像:ボーイング社)

「実験航空機」を作らせず「試験飛行」にこだわる理由

四戸:あくまで期間限定の純粋な実験機の場合、耐空性の要求は簡易的、限定的であるべきです。そうでなければ一過性の実験試作に無用な負担を与えて、試作の意味を失わせてしまいます。米国のExperimental Aircraftに相当するカテゴリーを設けるべきでしょう。新型機開発に行政の後押しは欠かせません。

松浦:Experimental Aircraft、「実験航空機」というカテゴリーですよね。市街地上空をを飛行できないとかいくつかの飛行制限の代わりに、迅速に新技術を実地で試すことができるというものです。自作航空機も多くはこのカテゴリーでナンバーを取得して飛んでますね。なんでも米国では2万4000機もの実験航空機が飛んでいるとか。

四戸:そうです。米国航空産業の創造力の源泉とも言っていい制度です。ところが日本の航空法には、米国の実験航空機に相当するカテゴリーがありません。

Y:八谷和彦さんの“メーヴェ”こと「M-02J」は、「JX」で始まるナンバーを取得していましたが、あれは実験航空機のことじゃないのですか。

八谷和彦さんの操縦で、ジェットエンジンで空を飛ぶM-02J(撮影:香河英史)

四戸:確かに現在、日本では実験航空機に「JX」で始まるナンバーを与えています。ところが、その法的な根拠はといえば、航空法の「11条みなし(※)」というとても曖昧なものなんです。法の隙間を使って、かろうじて実験航空機を飛ばす根拠を作っているんですよ。

※正式には「11条第一項但し書き(試験飛行における機体の許可)」

松浦:航空法第11条1項は「航空機は、有効な耐空証明を受けているものでなければ、航空の用に供してはならない。但し、試験飛行等を行うため国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。」となっていますね。

四戸:その「但し」以降の部分を拡大解釈しているんです。「国土交通大臣の許可を受ければ実験航空機を試験飛行として飛ばしてもよい」というようにね。

 ということはですね。JXナンバーの機体は、飛ぶとなると毎回が試験飛行なんです。大量の書類を航空局に提出して試験飛行を申請しなくちゃいけない。こんな煩雑なことをやっていたら、技術開発が捗るはずがありません。本気で日本の航空産業を振興したいなら、まず実験航空機をきちんと法律で明文化して、もっと簡単な手続きで飛ばせるようになるべきなんです。

Y:しかし、なんでそこまで「実験のための航空機」という形を避けて、あくまでも「普通の機体の試験飛行」という形式にこだわるんでしょうか?

四戸:なぜかというと、ゼロベースで作られる実験航空機には規定がない。照らし合わせる書類がないからです。

Y:あ、M-02Jはまさにそうですが、「どういうふうに操縦するか」から新たに作られることさえある機体に対して、所轄の官庁として「それは安全なのか、危険なのか」を判断することになる。

四戸:白紙の状態で、正面から、自らの責任でもって、その機体の安全性を吟味する必要に迫られる。だから、「既定のカテゴリー」にむりやり位置付ける「試験飛行」という建前を通している。私はそう理解しています。

八谷和彦氏が持っているのが、M-02Jの試験飛行のために提出を求められた書類を収めたフォルダ。「これは初回提出の書類で、その後の審議の途中でいくつか追加書類を求められ、別に提出していたりもします。例えば、耐空性審査要領への適合状況リストや、エンジン騒音検査の結果などです」(八谷氏)。
試験飛行には、左奥の「11条第一項但し書き(試験飛行における機体の許可)」中央の「28条第三項(試験飛行における乗員の許可)」右奥の「79条但し書き(試験飛行場所の許可)」の3点が必要。「全部東京航空局ですが、11条と28条は九段の国交省航空局に、79条は所轄の事務所(千葉県の滑空場の場合は成田空港内事務所)に許可申請書を送ります」(八谷氏)。