四戸:大学を出てすぐにオリンポスを起業して、最初の仕事になるはずだったグライダー開発計画は、恩師の木村秀政先生が亡くなられたことで、頓挫してしまいました。そこで、その後しばらくの間、航空機とは無関係のソフトウエア開発で会社を回していました。

松浦:しばし畑違いの場所を放浪していた、と?

四戸:なんでもやりましたね。たとえば東京ディズニーランドの入退場システムを作ったのは私たちです。東京電力の建設する高圧電線の鉄塔。あの鉄塔を自動設計するプログラムも作りました。そんなにバージョンアップする必要のないプログラムですから、多分東京電力は、私が作ったプログラムを今も使っているのではないでしょうか。

松浦:そうか。飛行機と同じなんですね。鉄塔はトラス構造だから、航空機の桁構造と同じ方法で強度計算ができる。

Y:……(呆然)。

専門教育を受けたら即専門家……というわけではない

四戸:そうです。そのほか原発のタービン隔壁の設計もしましたし、人工衛星の太陽電池パネルの展開部を設計するなんて仕事もしました。そうやって広く仕事を引き受けてこなしていく中で、日本の技術の歪みというか、未熟な部分に気が付くようになりました。

 なにかというと、専門病なんです。私に仕事を頼んでくる皆さんは「四戸さんは鉄塔構造の専門家なんですね」とか「建築土木を専門としているのですね」、はたまた「宇宙技術を勉強したのですね」とか言うわけです。ところが、それら全部自分からすれば、航空機を作るためにした勉強の応用なんです。みんな「専門の勉強をすることで専門の仕事ができる」と、思い込んでいるんです。専門課程卒業という学歴と、実務能力が必ず1対1であるものだという幻想に浸ってしまっているんですよ。

トラス構造:桁を三角形につないで面を作り、さらにその面をつないでいくことで全体を作って行く構造。軽量高強度という特徴を持つ。高圧電線の鉄塔や、スポーツ自転車のフレームは典型的トラス構造である。トラス構造の桁にどのような力がかかるかを計算するのは、構造物設計の基本である。

Y:今、ウチの子供が小学生と高校生なんですけど、学校での話を聞くと、職業というものを早めに考えさせようという圧力が、自分の頃では考えられないぐらい強くなっているんですよ。

四戸:そうみたいですね。