生涯を通じて大事なことだけど、他人はもとより親子でも突っ込んだ話はしにくい「おカネの話」。これに真正面から取り組み、親が子供に伝えるべき内容を実践的にまとめたのが、パーソナル・ファイナンスの米専門家が書いた新刊『「おカネの天才」の育て方』。米国ではどのようにして「おカネの教育」を子供に行うのか、その実践的な内容は、おカネに関して自己責任の方に向かう日本でも参考になるはずだ。本書から「子供とおカネの話をするときの14のルール」を抜粋、3回に分けて連載する。
前回まで、「子供とおカネの話をするときの14のルール」から、以下のルール1~9までを紹介した。最終回は、ルール10~14までを一気にお伝えしよう。
●連載第1回
ルール1:まだ早いと思う時期から、子供に話を始める
ルール2:年齢に見合ったことを教える
ルール3:エピソードを話す
ルール4:数字を使う。数字嫌いでもかまわない
●連載第2回
ルール5:自分のおカネのしくじりについてウソをついてはいけない。ただし、あけすけすぎてもいけない
ルール6:いくら持っているかについて、ごまかさない
ルール7:おカネに関わる親の弱みは脇に置く
ルール8:夫婦の間のおカネのもめごとは、子供に見せない
ルール9:子供におカネばかり与えていると、おカネのスキルは身につかない
ルール10:みんなが会話に参加する
研究によると、子供はたいていの場合、母親におカネの質問をするらしい<※1>。とはいえ、ビジネスの世界で成功している超優秀な女性が、おカネのこととなると「パパに聞いてね」という例の古臭いセリフを口にするのを、私は聞いてきた。
※1 One study found that children of divorced parents… Dorit Eldar-Avidan, Muhammad M. Haj-Yahia, and Charles W. Greenbaum, "Money Matters:Young Adults' Perceptions of the Economic Consequences of Their Parents' Divorce," Journal of Family and Economic Issues, vol. 29, no. 1, March 2008,pp. 74-85.
ママは忙しい一日に疲れていたのかもしれないし、仕事のことが頭から離れなかったのかもしれない。病気のペットのことを考えていたのかもしれないし、換気扇が壊れたことを気にかけていたのかもしれない。でも、「パパに聞いて」が口癖になると、おカネのことは男のなわばりだと思われてしまう。私は違うと思う。
家族の構成がどうであれ、両親が揃っていても、片親でも、母親がふたりでも、父親がふたりでも、両親と養父母が二組いても、全員が自分の役割として子供と積極的におカネの話をしてほしい。「ママの方がおカネの扱いがうまい」とか、「パパはおカネの達人」とか言わない方がいい。もちろん、「そこは自信がないから、あとで答えるね」と言うのはいい。それから答えを探せばいい。実際に答えを探して子供にきちんと伝えてほしい。
ルール11:男女格差を作らない
数学の成績に男女差があることについては、多くの研究で記録されているが<※2>、おカネにも明らかに男女差がある。問題の一因は親にある。おカネの話となると父親も母親も、娘より息子とよく話す<※3>。投資の話は特にそうだ<※4>。さまざまな調査やアンケートからもそれは明らかだ。
※2 Roland G. Fryer, Jr. and Steven D. Levitt, "An Empirical Analysis of the Gender Gap in Mathematics," National Bureau of Economic Research, NBER Working Paper no. 15430, October 2009.
※3 "5th Annual Parents, Kids & Money Survey," T. Rowe Price. "Charles Schwab 2011 Teens & Money Survey Findings," Charles Schwab.
※4 Lynsey K. Romo and Anita L. Vangelisti, "Money Matters: Children's Perceptions of Parent-Child Financial Disclosure," Communication Research Reports, vol. 31, no. 2, 2014, pp. 197-209.
するとどうなるだろう? 男の子は女の子よりもおカネに自信を持つようになる。親もまた、息子の方が娘よりもおカネの価値を理解していると思うようになる<※5>。それでなくても女性は男性より収入が少なく<※6>、引退のための蓄えも少ない<※7>。
※5 "5th Annual Parents, Kids & Money Survey," T. Rowe Price.
※6 Tanya Somanader, "Chart of the Week: The Persistent Gender Pay Gap," WhiteHouse. gov, September 19, 2014.
※7 "The Pay Gap's Connected to the Retirement Gap," The Women's Institute for a Secure Retirement, WISER Special Report, 2015.
そのため女性が金銭面で男性に追いつくにはかなり努力しなければならない。だからこそ、女の子は早くから頻繁に事実を聞く必要がある。男の子も女の子も、おカネのことを知っておくべきだ。
ルール12:セレブのリアリティ番組を見せない
誰でも他人と自分を比べてしまうものだし、それは現代生活の一部になっている。モノを追いかけ、目の前の満足を欲しがり、メディアに踊らされる文化の中で生きていると、ますますそうなる。いずれにしても、自分の家庭のおカネの使い方を他人の家と比べるのはやめよう。
これは、言うは易しではある。誰もが友達や近所の人たちと自分を比べて、相手を見下したり、自分たちの判断を疑ったりするものだ。そうして嫌な気分になってしまうことは多い。あなたが、古いキッチンを改装するよりネパール旅行のおカネを貯めたいと思ったとしよう。あと一年くらいは古びたカウンターの天板や床のタイルの欠けも我慢できる。お隣の家は地下のプレールームに大枚をはたく代わりに、遠出といっても市民プールくらいに抑えているかもしれない。それは生き方の違いだ。
他人の家のおカネの使い方や価値観に、勝手な思い込みを抱いたり、決めつけたりするのはやめよう。特に子供の前ではやめてほしい。それは悪いお手本になるし、自分と他人を比べても結局幸せにならないことは、研究からも明らかだ<※8>。
※8 Andrew E. Clark and Claudia Senik, "Who Compares to Whom? The Anatomy of Income Comparisons in Europe," Institute for the Study of Labor, IZA Discussion Paper no. 4414, September 2009.
おカネの使い方は人それぞれ。友達や周囲の人に追いつきたい、または見下したいという誘惑にハマらない子供にしたいと思ったら、まずはあなた自身が行動で示してほしい。
ルール13:時と場所を選んで話し合う
子供は、特にティーンエイジャーは、何を言っても親の思い通りにはしてくれない。説教すれば、逆効果だ。だから、この本にあるおカネについての教えを、日常生活の中にうまく織り込んでほしい。息子がおばあちゃんからお小遣いをもらったら? 一緒に銀行に行って、前から話していた貯蓄預金口座を開き、お小遣いを貯めさせよう。それが、金利と選択について話し合うきっかけになる。
たとえば、譲渡性預金と普通の預金口座はどう違うのか? 自宅用に新しいノートPCを買うとしたら? 子供にノートPC探しを手伝ってもらおう(地元の電機店の値段と、ネットで見つけた安い値段の差額の一部を子供にあげてもいい)。そして、大きなものを買うとき、たとえば自動車を買うときには、子供をディーラーに連れて行き、交渉のテクニックについて話し合おう。
ルール14:子供の前で大盤振る舞いをしない
「私の言う通りにしなさい。でも私の真似はしちゃダメよ」。ことおカネに関しては、そんなふうに流れやすい。だけど、自分を抑える努力をしよう。もちろん、あなたがおカネの天才でなくとも、子供をおカネの天才にすることはできる。でも、わざわざ子供の目の前で悪い習慣をひけらかす必要はない。
子供にクレジットカード負債の危険を話しながら、両手いっぱいにデパートの袋を抱えていたら、子供は納得しないし、そんなのは口だけだと思われる。だから、小さな一歩でも行動してほしい。子供の心に強く訴えるには、まずあなたがおカネをきちんと管理するよう努力しよう。
(了)
子供に賢いおカネの習慣と金銭感覚を身に付けさせるために、「おカネの使い方」「貯金」「借金」「保険」「投資」「学費」「社会への還元」などについて、子供の年齢層に応じたアドバイスを保護者に伝授する。小遣い制をうまく定めるには? いくつになったらクレジットカードを持たせる? 安全に投資するための最も大切な概念とは? など、具体的で実践しやすい教えとその理由をお伝えする。
著者は、オバマ政権の金融教育諮問委員を務めたパーソナル・ファイナンスの専門家。
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