居林:いまはもう、財政政策にバトンタッチされるべき時期なんですが、そこをマーケットは読み違えていると思います。もっともっと金融政策を、と考えている。ユーロ危機、ギリシャ危機、チャイナハードランディング、みんな中央銀行が救ってくれた、助けてくれた。「だからもっと何かしてよ」と。でも、今我々が考えねばならないのは、ヒーローが去った後のことなんですよ。

 居林さんのノリに合わせて言えば、「壊れた橋やビルを直すのは、我々地球人の仕事でしょ」ということでしょうか。

居林:そうですね。中央銀行が経済全部の面倒は見ることはできませんからね。

 でも、今日お話ししたい課題はもっと大きいんです。「怪獣をやっつけるのはヒーローだけど、地球の環境問題は我々1人ひとりの役割」という感じが近いかな。いつの間にか、我々を取り巻く経済環境は、ずいぶん問題含みになっているんです。ということで、資料を作ってきました。

 ありがとうございます。

居林:ちょっと大きな話をしますよ。まずリーマンショック後、米国で何が起きたか、です。

●米国のサービス業と製造業の雇用者数の推移
出所: Bloomberg, UBS

 2008年のリーマンショックを経て、米国の雇用は右肩上がりに回復しているのですが、その主役はサービス業です。製造業は回復していない。

 なるほど。

居林:そしてご存じの通り、サービス業は賃金水準が低いのです。なぜかといえば、限界生産性が低いからです。

 限界生産性…1人当たりの生産性の上がり方が低い、という意味ですか。

サービス業では賃金が上げにくい

居林:そうです。1人当たりの生産性が上がれば、売り上げは拡大し、給与も上がりますよね。製造業ならば、機械を動かしているオペレーターの技能が向上して生産高が増えると、1人当たりの生産量が増え、売り上げが増加します。同じ人数で稼ぎが増えるので、賃金を挙げる余地が生まれます。しかし、サービス業では、たとえば介護は1日1人何件、という限界を上げづらいし、無理をすれば生産性はむしろ下がっていきます。

 サービス業の相手は人間ですからね…。そうか、サービス業の場合は、人数を増やせば売り上げは伸びるけれど、生産性は変わらないわけか。ちょうど「私の履歴書」で、吉野家ホールディングス会長の安部修仁氏が、生産性の向上で危機対応を図ったお話をされてましたね(こちら)。読む限りでも大変な挑戦だったことが分かります。

居林:これは吉野屋のお話ではなく一般論ですが、「サービス業の生産性向上」が図られる」場合、サービス業は人件費の割合が高いために、どうしても賃金を抑制するという方向に動きがちです。つまり、雇用がサービス業に移行したために、国内産業の賃金が上がりづらくなった。これは先進国の共通の問題です。

 ではどうして製造業の国内雇用が失われたか、これはもう言うまでもない話ですが、データで確認しておきましょう。

●世界のGDPに占める貿易の割合
出所: Haver Analytics, Worldbank, UBS

居林:答えは、世界の成長が貿易でドライブされてきたからです。青線の、世界のGDPに貿易が占める割合は、1992年で14%くらいでしたが、どんどん上がって23%くらいまで伸びました。

 これは、WTOやFTAで関税が下がってきたおかげです。世界の関税率は7%から3%になり(数値はOECD加盟国の単純平均です)、“世界の工場”として中国が発展し、先進国の製造業の雇用を奪ってしまったわけです。その雇用がサービス業に置き換わった。