本社を売って、転居するというのは、最後の資産を手放す、城を捨てるに似た不退転の決意を示す行動であることを意味します。日本企業はそこからが強い。創業者が戻ってくることも、同じです。このふたつは間違いなく企業の結束力を高め、できることは何でもやろうという姿勢、努力に結びつきます(念のため補足しますが、手狭になって引っ越し、という移転はこれに当たりません)。

 もちろん、そこまでやるからには、他のリストラにも手を付けることになります。日本企業は、リストラも成長戦略も、人が切れないから遅れるのですけれど、「ごめんなさい!」と、思い切って動く場合、本社移転という象徴的な行為とセットになるわけです。「そこまで追い込まれているなら仕方ない」と。

 これも個別の企業名は述べませんが、日経ビジネスをお読みの方なら、いくつも思い当たる例はあると思います。ちなみに海外企業ですと、本社ビルを売るかどうかは業績にはあまり関係ありません。たいてい、その前に会社ごと売られています。

 社長が替わって創業者が戻る、というのも、「これは大変な事態だ」という認識を社員に持たせ、社内を糾合する意味合いが大きいと思います。危機感を一気に浸透させる効果が、本社の売却移転と創業者のカムバックにはある、ということでしょう。そして、危機感が高まると日本の企業は強い。

日本企業のマネジメントは変わりつつあります

 では、M&Aはどうか? うーん。大きな“勝負所”のサインなのは間違いないです。ただ残念ながら、本社移転や創業者復帰ほどは、これまでのところうまくいっていないように見えます。主な理由は、国内で同業他社を買うのは救済が主であるということと、海外での買収は、買収後のマネジメントがうまくできていないケースが多いことです。しかし、前評判と大きく異なる成果を生み出している企業もあります。

 M&Aについてはどうしても疑いの目で見てしまいますけれど、今後、国内外で事例が増えていくのは間違いない状況です。

 経営者の方にお話を伺うと、国内市場が縮小している産業では特に、国内再編、海外買収ともに、「もはや挑戦しないわけにはいかない」とお考えのようです。

 加えて、人手不足により「人を切らなくていい」という状況があります。M&Aの相手に「そのまま来て下さい」という話がしやすくなっている。もうひとつは、大手電機メーカーがコア事業に特化する動きを見せていることです。枝葉を広げるだけではなく、たまには刈ったり、接ぎ木したりしないといけない。そのための手段としてM&Aは今の日本企業に必要不可欠な手段になってきていると思います。

 バランスシートには多くの現金も積み上がっていることですし、コーポレートガバナンスの観点からも、どの事業が必要でどの事業は不要なのか、という判断を下す必要性が増していると思います。

 そして、日本企業のマネジメント自体も変わりつつあります。この25年で、「日々のオペレーションが綺麗に回っている」だけでは、経営者はハッピーではいられなくなりました。これは大きな変化です。現状維持でよしとするのではなく「あたらしくする」意識が、日本企業に徐々に広がっているんだと思います。となると、「日本企業の買収や合併はうまくいかないことが多い」という状況が、これからは変わるかもしれません。

 「徳俵に足がかかったことを自覚して、巻き返しを図る企業」。こういう企業が日本にこれから続々と出てくると思いますし、市場が時代の寵児として祭り上げている企業よりも、私は好きです。だからこそ、業種レベルであれ個別企業レベルであれ、「今調子の良い」企業よりも「今、復活の手を打っている」企業に注目しています。