市場の値動きに必死についていったのでは、投資で利益を上げることはできません。現状の株価の動きが自分の判断と違う、つまり「間違っている」と考えられる際に、逆張りでいわば市場の意見に「ケンカを売る」、多くのプレーヤーの判断の逆を突くことで、投資家は利益を得ることができるのです。「市場が妥当な状況だ」と判断できる場合、そのタイミングではチャンスは少ないと言わざるを得ません。

 補足しておきますと、初回にトヨタの例で説明した通り、株価を形成するプレーヤーは、総ての株主から見るとごくわずかな人々です。その人たちの中で、状況を「勘違い」して、(あなたや、わたしの目から見れば)根拠のない売りや買いに出ているプレーヤーが存在し、「間違った値動き」を作り出す。ケンカを売るのは彼らに対してです。

 ついでに、株価は「国民投票ではない」ことも、頭に入れておくといいかもしれません。日本国民全員に「トヨタの企業価値は、年初からこの半年で28%下がったと思いますか?」と聞いたら、おそらく大半の答えはノーでしょう。でも、株価は全員の意見では決まっていないので、年初から28%の下落ということが起こるわけです。

政治的なイベントの影響は、意外に残らない

 さて、話を戻します。

 株価は企業業績で決まる、というのが私の考え、拠って立つところですが、その視点から見て現状はまずまずフェアバリューと言えます。値動きが少ないのもそのせいかもしれませんが、実際には、冒頭に挙げたイベントの結果を見るまでは怖くて動けないというのが本当のところでしょう。言い換えると、日本市場は英国の国民投票や米国大統領選挙の結果を読みあぐねている、ということにもなります。

 そして「投資のチャンスが生まれるとしたら、これらのイベントの結果が出た後だろう」というのが、私の理屈です。

 パニックは、過去の経験を振り返らない、単純な連想から生まれがちです。

 たとえば英国がEUから離脱することになったとしましょう。ついでにギリシャ危機も再発したとしましょうか。これは明らかに景気へのマイナス要因です。FEDは利上げを見送るでしょう。ということは、これが円高への引き金になり、日本企業の業績にダメージが生じ、東京市場も…。と、投資家の間で連想が働いて、日経平均はぐんと下げるはずです。

 しかし、意外かもしれませんが、実は政治的なイベントは株価には大きな影響を与えません。もちろん、一時的にはパニックが生じて乱高下しますが、センチメント(市場心理)を揺さぶり終えた後は、しかるべき水準に戻っていきます。バブルの崩壊とはそこが違います。

 英国のEU離脱は確かに企業にも大きな影響を与えそうです。でも、このイベントは私には既視感があります。1992年6月2日、デンマークはに欧州連合設立条約(マーストリヒト条約)の批准を国民投票で否決しました。この影響は甚大で、英国もデンマークが批准するまで、自国の批准を見合わせることになってしまいました。

 しかし、結果としては、例外規定を盛り込む形で両国とも条約に批准、EUへの加入を果たしています。今回も、もし英国がEUから分離するとしても、経済に与える影響を最小限に留める方策が採られる、と考える方が自然ではないでしょうか。

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