「決め手」となる項目は、多くの場合その市場全体にかかわる話です。
 弊社の推定では、原油の供給過剰は世界全体で現在1日当たり150万バレルです。

世界の石油の需給バランスと価格

 原油の需給バランスとしては、歴史的に見ても非常に大きな供給過多の水準であることも理解しています。イランの輸出開始に伴う増産は日量50万バレル程度でした。「過剰分が150万バレルから200万バレルなんだから、大きなインパクトじゃないか」といわれるかもしれません。

 しかし問題は、「その世界の供給過剰分は、生産量全体の中でどのくらいの割合なのですか」ということ。世界の石油の生産量は1日当たり8900万バレルなのです。ということは、供給過多は全体の何パーセントでしょうか? そう、2%未満ですよね。

 供給過剰の現状は分かります。シェールオイルのコスト低下、イランの輸出開始、それも認識しています。その影響で、過剰な供給量が160万バレルになるのか170万になるのか、180万になるのかもしれませんが、いずれにせよ増えたところでその程度では大勢に何の影響もありません。従って、イランの問題はおそらく、原油市場全体の「決め手」にはならないと思うのです。

 なぜかというと、図をご覧ください。第一次オイルショック以降の石油の需要と供給は、多少上下はしていますが、結局ずっと右肩上がりです。これは人口が増えているからです。「シェールオイルが」「イランが」と騒ぐ人は、グラフの中の小さなでこぼこ、ケタでいえば一の位や十の位程度の話をしているように思うのです。

 イランの輸出量振り分け、もしくは増産幅というのも、全体を決める要素のひとつ(ファンダメンタル)だと言おうとすれば言える。でもケタ数は、せいぜいで一か十の位なのです。そういう意味では、原油が28ドルなのか、26ドルなのか、25ドルなのか、私はあまり気になりませんでした。それよりも、いつ掘削コストが高い原油生産者が生産量を落とすのかに注目しています。

 聞いた話や知ったニュースがどのケタのことを扱っているのかを正しく理解する。もっと大きな決め手があるのではないかと考える。大切なのはここなんです。十万、百万のケタを間違えたら、百以下の位が全部合っていても意味がないのですから。

勉強家の方ほど「ケタ間違い」にご注意

 とはいえ、実はプロの機関投資家でも、議論を始めるとどんどん細かい話になることがあります。私も同じです。以前、原油価格の低下をサウジアラビアの陰謀だと唱える方の講義に3時間ほどお付き合いしたことがありますが…。ただ、本当のプロ同士ならば、どこかで「まあ、一の位の話だよな」と気づくはずです(気づかないと大問題です)。特に勉強家の個人投資家の方ほど、ご自身で「これは本当に意味のある大切な話なのか?」と自問する瞬間を作っていただきたいのです。どんな話にも理屈は付けられるので、「だから正しい」「だから間違い」とは言い切れません。みなさん色々な理論を唱えるのですが、その理屈が正しいとしても、動くべきかどうかはケタが判断の基準となるのです。

 ケタ間違いをするな、としつこく言った後でなんですが、面白いのは、市場もときどきケタを間違えること。

 今でも覚えている典型的な例があります(分かりやすいので、市場全体ではなく個社の話をしますね)。

 一時、ある水着メーカーが開発した新素材の水着を着た日本の水泳チームが次々に日本記録を出して話題になり、そのメーカーの株価が2倍、3倍ぐらいまで跳ね上がったことがありました。

 「これは“ケタ”違いの話じゃないか。その水着でどのくらい儲かるのか」と思っていたら、その後、当然株価はもとの水準まで下がりました。よく言われる「××を材料にはやす」というのは、たいていケタを間違えた株価形成なのだと思います。