「ボツ案」がプロジェクトの本質を語る

 ただ、結果的にこのやり方は、膨大な「ボツ案」を生み出すことになります。仮に1プロジェクトあたり5つのデザインやアイデアの提案を行うとします。すると、400のプロジェクトを走らせていると、そこには2000のアイデアやデザインが生まれることになるのです。採用されるデザインが各プロジェクトにつき1個だとしたら、ボツ案は1600。供養してもしきれません。

 私たちは基本的に、どの案も正しく機能するはずだという自信を持って提案しています。ただその思いとは裏腹に、当然ながらアイデアやデザインは無情にもボツになります。自分のデザイナーとしての未熟さが原因であることがほとんどですが、クライアントが考える事業戦略と方向性が違う場合もあれば、単純に面白いか、面白くないかという判断基準のもとでボツになることもあります。実現するのに時間がかかりそうなど、タイミングが問題だったりするケースもありますし、プロジェクトが別の性質のものへと変化し、結果的に最初の案が切り捨てられるケースなど、その原因はさまざまです。

 デザイナーが手がけたプロジェクトを雑誌や書籍などのメディアで目にすることがあるかと思いますが、それは大概「完成形」です。設計意図やコンセプトは往々にして、完成された状態から遡って説明されたものです。そして、それを語るデザイナーの姿はカッコ良く見えがちです。

 しかし残念なことに、実際は決して格好の良い職業ではありません。難題を託され、足を使ってリサーチし、スタッフ一丸となって悩み、苦しみ抜いてファーストプレゼンをして、却下されたら、再プレゼン。そこから長い期間に渡って議論とデザイン変更が重ねられ、幾多のトラブルを経てなんとかギリギリの状態で「完成形」が世に送り出されるのです。

 このような詳細なプロジェクトの過程が情報発信される機会は非常に少なく、まして世に出なかった「失敗」について語られることなど皆無に等しい状態です。なぜなら、企業にとって失敗や世に出せなかったプロジェクトについて発信することは、デメリットこそあれど、メリットなど何ひとつ無いように思われるからです。

 ただ、私はこういった数々の失敗を経てデザイナーとして学び、成長させてもらいました。また、そうした失敗を経てクライアントが大きく飛躍していく姿を多々目撃してきました。

 そういった日の目を見ることのなかったボツ案と、そこに至るまでの経緯の中にこそ、デザイナーの葛藤や苦悩が潜んでおり、「成功体験」や「美談」を通じては到底理解することのできない本質的な価値がそこに存在しているんじゃないか、と常々感じています。

 そんな、デザイナーの「カッコ悪い」姿を通じて、デザインの魅力や本当の役割を、この連載では少しでも多くの方に感じ取って頂けたら幸いです。