トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争

既にメキシコ、中国、日本がやり玉に挙がっていますね。

孫崎:ええ。この点におけるトランプ大統領の姿勢は当初考えていた以上に厳しいものになると思います。最も被害を受けるのは日本かもしれません。メキシコで数多くのクルマを生産し、米国に輸出しているのは日本企業ですから。

 それにもかかわらず日本政府や経済界は真剣さが足りないと思います。

どういうことですか。

孫崎:TPP(環太平洋経済連携協定)の実現に向けて努力する――などとまだ言っているからです。政府は仕方ないかもしれません。これまでの経緯から引っ込みがつかないところがあるでしょうから。しかし、経団連までが「翻意を促すことは可能」などと発言しています。

 TPPはもう終わっています。トランプ大統領を説得する余地はありません。「オーストラリアと協力して米国を説得する」と言っている人もいますが、無駄だと思います。

 日本がやるべきは貿易戦争への対応です。トランプ大統領が求めているのは貿易パートナーとのウイン・ウインの関係ではありません。「アメリカ・ファースト」に基づくウイン・ルーズの関係です。これは「戦争」なのです。

日本はどうすればよいのでしょう。

孫崎:NAFTAを締結した時のカナダに学ぶことができると思います。カナダはNAFTAに積極的でした。一方、米国の連邦議員の中には反対派がいた。委員会の採決では、一時は反対票が賛成票を上回りました。

 これをくつがえすべくカナダは何をしたか。反対派議員の選挙区にとって「不利になる状況を作る」と反対派議員を“脅した”のです。例えば、ハワイ選出の反対派議員を懐柔すべく「キューバをはじめとする中南米向けの旅行を奨励するキャンペーン」を展開すると迫りました。観光で成り立っているハワイにとって、カナダからの旅行者が減ることは見過ごすことができない事態でした。

 こうした策をいろいろと講じて、カナダはNAFTAを実現しました。日本にもこうしたしたたかさが必要です。あえて繰り返します。これは「戦争」なのです。貿易摩擦が激しかった80年代を思い返す必要があります。

対IS戦争への協力を求められる

中国が台頭し、東シナ海や南シナ海の安全保障が不安視されています。そんな時に米国と貿易戦争をしなければならない。これは日本にとって大変な環境変化です。トランプ大統領は安全保障については現状を維持するでしょうか。

孫崎:トランプ大統領は過激派組織「イスラム国(IS)」の打倒を掲げています。そして同盟国はそれに協力すべきだと言っている。

IS掃討戦に日本が参加を求められるようなことがある?

孫崎:さすがに自衛隊を戦闘に参加させろとは言わないでしょう。しかし、ロジスティック(兵站・後方支援)での貢献を求められることはあり得ます。「Show the flag」「Boots on the ground」の次は「Sheds the blood(血を流せ)」というわけです。

 日本に駐留する米軍の経費について一層の負担を求めるのは確実でしょう。ミサイルなどの配備に関する負担が俎上に上るかもしれません。「これで日本を守っているのだ」という理屈で。

現在の思いやり予算は、米軍基地に勤める従業員の人件費や基地の光熱費、建設費が主な対象です。これを武器そのものにまで拡大する可能性がある。

孫崎:その通りです。2月に予定されている日米首脳会談に麻生太郎財務相も呼ばれています。これは「財布を持って話し合いに来い」ということです。