オバマ流の支持者とのコミュニケーション手法は、トランプ氏にも受け継がれているのでしょうか。

海野:いや、トランプはオバマとは別物ですね。Twitterをよく使っていますが、使い方は全然違う。じゃあどうやっているかというと、私は「トランプ・ループの罠」と名付けたんです。そして今のところ、この「罠」から誰も抜け出せていない。

 トランプは、Twitterを使ってアジェンダ(議題)を設定するんです。トランプ氏の設定する議題というのは、たとえばメキシコとの国境に壁をつくるとか、イスラム教徒の入国を制限するとか色々ありますよね。議題を設定すると、それがニュースになります。ニュースになると、メディアは、この議題について各方面の反応を聞きに行くんです。これはすでに2015年の共和党候補選びから始まっていました。当時、対立候補だったジェブ・ブッシュとか、マルコ・ルビオ氏に対して、記者がマイクを向けるわけです。

 「トランプさんはこう言っていましたが、どう思いますか」。そう聞かれて、ジェブ・ブッシュもルビオも付き合いたくはないんだけど、しょうがないから「民主主義に反する」なんて反応します。すると、トランプはTwitterで「何を言っているんだ、だから白人労働者が困っているんだ」とか怒るわけです。「不法移民の制限に反対するというが、これだけ世界でテロが起こっている現実を見ろ」とか。すると、メディアはまたジェブ・ブッシュとかルビオにコメントを取りにいくわけです。

なるほど……。これ、個人的にも思い当たる節があります。私、今月5日に自動車関連団体が開いた賀詞交歓会で、トヨタ自動車の豊田章男社長にコメントを求める記者団のなかにいたんです。ちょうどトランプ氏が米フォード・モーターによるメキシコ工場計画の撤回についてTwitterで発言した頃でした。

海野:でしょう。

そして、記者たちは「トヨタ社長がメキシコ工場計画は見直さないと話した」と記事を書きました。するとトランプ氏は「トヨタがメキシコに工場を建てるなんてありえない!」とツイートしました。

海野:まさにそういうことですよ。

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けれど、トランプが言っていることがめちゃくちゃだってことは分かるひとには分かりますよね。

海野:記者たちはそれを分かってはいるのだけど、あえて報じました。少なくとも大統領選が始まったばかりの頃、トランプの発言をニュースにすればテレビは視聴率をとれたし、雑誌は売れたんです。

当時は泡沫候補だと思われていたから、面白おかしく取り上げられたわけですね。

海野:そうです。トランプはツイートする時間も計算しています。だいたい朝6時から8時のあいだです。それで、その日の議題を決めちゃうわけです。もうこの構図が固定されているんです。

「ループの罠」対策が必要

ということは、トランプ氏はTwitterを通じて、ある意味、マスメディアを動かすというループを作り出していると。

海野:はい。マスメディアも「トランプ・ループの罠」の参加者なんです。そして、2015年の予備選のときからずっと、この構図から抜け出せていない。対策を考えないといけない。

対策を考えるべきは誰ですか。

海野:民主党も、名指しされた企業も、外国政府もそう。それから私みたいな学者も知恵を絞らないといけない。

1月上旬にはトランプ・タワーを訪問し、新大統領の支持者と写真を撮った。
1月上旬にはトランプ・タワーを訪問し、新大統領の支持者と写真を撮った。

20日の就任演説をどうご覧になりましたか。

海野:選挙期間中と変わらなかった印象です。「これまでは政府が統治者だったが、これからは国民が統治者になる」と強調していました。この国民って、感覚的にいうと一般市民、もっといえば労働者階級ですよね。

 クリントンだったらああいう演説にはなりません。クリントンはどちらかといえばエスタブリッシュメントを代表するひとですから。政府が、一般市民をコントロールするという側ですから。なので、ここについては説得力がありました。ただ、これで反トランプの動きが収まるかというと、それはちょっと難しいと思います。

上着のボタン、しめていませんでした。

海野:普通に考えたらマナー違反ですよね。私も就任式くらいちゃんとするのかなと思ったら、やらなかった。俺はエスタブリッシュメントの側じゃない、労働者の仲間なんだっていうことを、改めて強調する狙いがあったのではないでしょうか。

海野さん、研究は今後どうされるんですか? 来年には早速中間選挙が控えています。中間選挙が終われば、すぐに2020年の大統領選に向けたキャンペーンが始まります。トランプさんも先日、すでに2期目を務める意欲を示すような発言もしていました。

海野:もう決めていますよ。2018年の中間選挙は、民主党のコノリー下院議員の選挙陣営に入ってみたいと思っています。次の大統領選も、民主党候補が誰になるのか見極めて、ぜひ戸別訪問に参加したい。これからも研究を続けて、大統領選がどう変わっていくのかを報告したいと思います。