オバマ氏といえばコミュニケーション巧者。演説における洗練された言葉選びはもちろんのこと、2008年の初当選時にはまだ黎明期だったSNSを駆使した選挙戦略で注目を浴びた。支持者とのコミュニケーションにおいて、オバマ氏は従来の政治家と何が違っていたのか。米民主党の選挙運動チームの一員として、2008年から8年にわたって汗を流した明治大学の海野素央教授に聞いた。

(聞き手は藤村広平、一部敬称略)

(前編はこちら

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。異文化間のコミュニケーション論や異文化ビジネス論を専門とする。2008年以降、3回にわたる米大統領選で、オバマ陣営、クリントン陣営の選挙スタッフとして草の根ボランティア運動に携わった。著書に「アメリカがオバマを選んだ本当の理由」(同友館、2009年)、「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同、13年)など。(撮影:北山宏一)

研究対象とはいえ、やはりオバマ氏に思い入れがあるということですね。一緒に写真を撮ったことがあるとも聞きました。

海野:あります。2012年5月、バージニア州リッチモンドで開かれた支持者集会の時です。選挙キャンペーンで活躍している人だけ記念写真を撮れる特権を与えられ、その枠に選んでもらったのです。オバマ専任のプロカメラマンが撮ってくれました。

これは、相当な笑顔になってますね……。

海野:だってバラクだけかと思ったら、後ろからミシェルも入ってきてくれたんですよ。あのときは驚きました。

オバマ夫妻と写真におさまる海野教授(2012年5月、バージニア州で開かれた支持者集会)

「007」のような写真撮影

オバマ氏に会えるということは、事前に分かっていたのですか。

海野:知りませんでした。セキュリティの問題があるから、最初は知らせてくれないんです。オバマがバージニア州リッチモンドの支持者集会で演説することは知っていて、入場チケットを欲しいと選挙事務所に話したんです。すると「モトオはチケット要らないよ」と。

 このとき「あれっ」と思ったのですが、すぐに集会の責任者からメールが届いて、集会前日の深夜までにパスポートの番号、フルネーム、それからワシントンでの住所、日本での職業は何かを書け、と命じられた。理由は言えないと書いてありました。

 集会に入りたいので、送りましたよ。そしたら今度は「選挙スタッフから連絡がいくのでメールボックスを注意して見ていてくれ」と。もう「007」の世界ですよね。わかりましたと送ったら、今度はバージニア州リッチモンドのピンポイント、この場所に何時何分にいてくれって指示されたんです。

なんとなく勘付きそうなものですが。

海野:全然気づきませんでした。当日会場に着くと「運転免許証を見せろ」と命じられました。最初は「おまえがモトオか」と聞かれ、「そうだ」と答えたら「モトオって最後に『O』が2つのMOTOOで間違いないか、ウンノって『N』が2つでUNNOで間違いないか」と。

 本人確認ができたところで、入場するために並んでいた1000人ほどの列の先頭に連れて行かれました。同じく15人くらい特別枠に選ばれた支持者が立っていました。そのなかの黒人のおばちゃんが「いまから私たちオバマに会えるのよ!」と叫んでいて、そこでやっと気づきました。

 私が名前を呼ばれたのは6番目だったでしょうか。カメラもペンも財布も持っていてはダメなんです。特にペンというのは武器になりますから厳しかった。ベルトは許されていたかな。一般入場者は金属探知機を1回通ればいいのに、私達だけは2回チェックされました。