支持者に直接メッセージを送る際も、ネットの特性を理解したうえで、各人の関心に沿った情報配信に努めていました。日本でも選挙期間中のメール配信が解禁されたものの、その生かし方はオバマ流と大きく異なっています。日本の国会議員ってとにかく情報をじゃんじゃん流すでしょう。これって川上の発想なんですよ。若い世代に対して、若い世代には縁遠い事柄について情報を配信しても疎まれるだけです。

ネット業界でいうところの、ターゲティング広告みたいなものですね。

海野:はい。明治大学の学生に、私の講義の感想文を書かせたことがあります。すると、衆院選だったか参院選だったか、「選挙事務所のメーリングリストに登録したのはいいけれど、要らない情報まで送られてくるので受信箱がパンクして困っている。幻滅した」という声を聞きました。オバマ陣営は、メールの配信先リストに登録してもらうときには、関心のある争点は何なのか、必ずアンケートをとっていました。

2008年の選挙で当選した後、オバマさんは「@POTUS」(President of the United States)というTwitterのアカウントで発信を続けていました。あのアカウント、オバマさん本人が「実は自分でツイートしたことはない」ってカミングアウトしたことがありましたよね。

海野:ありましたね。あのアカウントはデジタル戦略チームのスタッフが運営していて、オバマ自身がツイートしたことはなかったはずです。ただ、だからといって支持者が白けてしまった、という実感はありません。支持率の低下は、どちらかというとオバマが経済政策の舵取りに苦戦し、雇用状況の改善が遅れたことへの失望のほうが大きかった気がします。

いずれにしても、選挙におけるSNSの活用については、オバマ氏の成功を目にして初めて「自分もやらねば」と思った政治家が多そうですね。

海野:やはり、世界中に大きな影響を与えたと思います。ただ、本質を理解していない使いかたがまだ多いように思います。日本がその典型例ですね。

デジタル技術の導入が遅いとされる政界のなかで、オバマの「SNS選挙運動」は画期的でした。ただし2008年以降、オバマ流のSNS活用法は対立候補からも相当研究されたのではないですか。たとえば2012年の大統領選では、共和党のミット・ロムニー候補もFacebookやTwitterを活用したはずです。

海野:もちろんです。対立候補も研究を進めました。これは非常に大切なポイントなのですが、ITの活用というのは、どんなに先進的な取り組みでも、すぐ真似されてしまうものなのです。オバマ陣営は常に先を行こうと模索していましたが、それでも時間が経つにつれ追いつかれていました。

(撮影:北山宏一)
(撮影:北山宏一)

強さの源泉はSNSではなく、地上戦にあり

SNS活用で追いつかれたのに、再選できた理由はどこにあったのでしょう。

海野:それが、最初にお話しした「地上戦と空中戦の融合」が意味するところです。空中戦は、あくまで地上戦を後方から支援する存在にすぎません。オバマ再選の流れをつくったのは結局のところ、地道な戸別訪問だったのです。

あれ。さきほど戸別訪問は以前から米国に根付いている選挙運動とおっしゃっていたような。

海野:そう。みんなやっています。ただし、オバマは誰よりも戸別訪問に力を注いだのです。オバマって、もともとシカゴの貧困地区を歩き回って、コミュニティー・オーガナイジングと呼ばれる草の根運動をしていた政治家ですよね。「困っていることはありませんか」「このあたりにバス停は必要ですか」「家庭教師は必要ですか」「有権者登録のやりかたはご存知ですか」「アパートを建てたほうが良いですか」といったことを聞いてまわっていたわけです。

上院議員になる前の話ですよね。

海野:そう。そして、オバマはそれを大統領選にも応用したのです。

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