オバマ陣営の選挙運動には、どんな特徴がありましたか。

海野:地上戦と空中戦の融合が上手でした。地上戦というのは、米国の伝統的な選挙活動である戸別訪問。空中戦がメディアの活用です。オバマ以前は、空中戦といえばテレビのことを指しましたが、オバマは歴代の大統領候補として初めて、革新的なまでにSNSを多用したのです。

具体的にはどのようなものでしょうか。

海野:2008年はFacebookの活用が目立ちました。支持者と支持者を結ぶツールとして使ったのです。一般の人は選挙活動に携わりたいと思っても、誰に連絡していいか分からないですよね。オバマの選挙陣営はFacebookのファンページに選挙区ごとの運動リーダーのメールアドレスを載せ、思い立ったらすぐ選挙運動に参加できるようにしていました。

 同時に、Facebookは意見交換の場にもなります。医療保険改革、イラク問題、アフガニスタン撤退……。いろんな政策課題について、支持者同士で議論してもらうのです。

オバマ候補の選挙事務所の様子(2012年)
オバマ候補の選挙事務所の様子(2012年)

意見交換にはどんな効果があるのですか。

海野:発言すればするほど選挙運動にのめりこんでいくことになります。日本の若者は選挙運動に参加してないですよね。大人でも同じかもしれない。オバマの選挙陣営は「commitment」(関与)という言葉を好んで使っていました。選挙にコミットすればするほど、誰かがどこか遠くの世界で戦っているものではなく、「自分たちが携わっている問題である」との意識が醸成されるのです。

 Facebookから話は逸れますが、2008年8月23日の出来事が鮮烈に記憶に残っています。その日の午前3時、支持者の携帯電話に一斉にテキストメッセージが送られてきました。「バイデン上院議員を私たちの副大統領候補に選びました。東部時間の午後3時から集会を開きます。ウェブサイトで中継するので、みなさんも視聴参加してください」という内容でした。

 この日、私はバージニア州のオークトンという街で戸別訪問にあたっていました。私のまわりの若者たちは震えあがっているというか、エキサイトしているというか、とにかく熱狂していました。このときのメッセージは選挙事務所のスタッフが送ったものでしたが、ときにはオバマ本人から送られてくることもありました。こんなメッセージが手元の携帯電話に届いたら、自分とオバマが個人的に、心理的に、あるいは情緒的にもつながっている感覚になりますよね。

情報配信は「関与」重視

オバマ氏が再選した2012年の大統領選では、なにか変化はありましたか。

海野:今度はTwitterをよく使うようになりました。とはいっても、コミットメントを重視するのはFacebookのときと変わりません。オバマの支持者は女性から同性愛者、ヒスパニック系やアフリカ系、あるいは若者など、「異文化連合軍」ともいえる多様な人々で構成されています。どこかの層が必ず関心を抱くトピックを、Twitter経由で発信するのです。

 たとえば、若い世代向けには「議会が学資ローンの金利を引き上げないように、私と一緒に働きかけましょう」とTwitterで呼びかけていました。「私は引き上げさせません」ではなく「一緒に働きかけましょう」です。米国の学生は、日本と違って学費を自分で払う。数百万円のローンを借りるので、その金利の上がり下がりは大きな関心事なのです。そこをオバマは上手くすくって問題提起していました。

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