お酒で愚痴っても、潜在意識には残ってしまう

 私はたまらず、退職者数人に改めて電話をして確認しました。10年近い付き合いになるある方の解釈は、このようなものでした。

「本人の性格によるもの、だと思う。神経症な一面があるのかもしれない。社内の雰囲気や世論めいたものを観察し、先回りをしているのではないか。それが深読みになっていて、嘘や妄想に近いものになっているのかもしれない。

 あの会社は、出版界の一流とまでは言わないが、その次に位置するセカンドグループ。一流出版社への屈折した劣等感やその反動の優越感からか、社員は自尊心が高く、互いにけん制し合いながら仕事をする傾向がある。こういう中では、空気を読んで生きていくことが必要と本人は考えているのではないか」

 私は、イメージが湧いてくるように気がしました。男性編集者は周囲が自分をどう見ているのか、と不安になりがちだったのかもしれません。それがエスカレートし、疑心暗鬼になっていた可能性もあるのでしょうか。その結果として、部署や社内の空気や世論などを先回りし、嘘や創作の回答や返信をしていたのではないか、と思えるようにもなりました。

 それにしても、気分を悪くする人でした。さすがに、よその会社である全国紙の記者のように振る舞い、語ることには、あきれました。私はその出版社と仕事をしているのであり、この際、他社のことは関係がないはずです。少々の嘘はともかく、その内容や頻度がここまでくるともはや、一線をこえているように思えたのです。

 昨年末の大掃除のとき、この編集者の名刺をシュレッダーにかけました。お酒を飲んで、「あんな編集者は…」と愚痴をこぼすことはしませんでした。それでは、意識の中に残ってしまいます。

 もう、一切の存在を消したかったのです。そのままにしておくと私の意識がいよいよ、おかしくなりそうでした。嘘だらけに見えて、何を信じるべきなのか、わけがわからないのです。