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認めたら医療が崩壊するという現実

 あまりご存じない方が多いかもしれません。働き方改革法案の議論のさなか、医者だけは適応を延期することになったのです。まあ厚生労働省の気持ちも分かるのですが、だったら医者だけじゃなく医療職全体にしてくれないと医者の過労は加速するではないか……と私は思っておりました。

 しかしなぜ、医者だけ延期になったのでしょうか?

 これは病院で働いていたら当然のように納得できるのですが、もし医者もすぐに適応したら医療が崩壊するのからです。日本の医療は、医者の多大なる自己犠牲の下に低コストで世界最高レベルの質を保っているのです。自己犠牲は、常態化している36時間以上の連続勤務や、ほぼ毎年のように発生している過労死する医師のニュースから見ても明らかです。

 そんな中、一つのニュースが飛び込んできました。「無給医」(むきゅうい)という聞き慣れない単語です。NHKが2018年11月の初めに「ニュースウォッチ9」という番組で特集したことから、この問題に火が付きました。

 無給医とは、無給で働く医師のことです。いやいや待てよ、医師は高給取りで有名で、ましてや無給で働くなんてこの現代日本にあるはずがないじゃないか……そんな声が聞こえてきそうです。しかし、無給医は確実に存在します。

 ここからは、NHKやjoy.net、m3.comという媒体の調査結果に加え、私がSNS等で独自に呼び掛け、実際に無給医から聞いた内容から実態をお示ししたいと思います。

なぜ無給で働く? 医師兼大学院生のカラクリ

 ではなぜ、医師は無給で働くのでしょうか? そもそも医師の給与は高く、拙著「医者の本音」にも書いたように、だいたい勤務医の平均年収は1500万円、開業医は2500万円です。にもかかわらず、無給で働く医師がいる場所があります。

 それは、大学病院です。大学病院では、主に医師のライセンスを持った大学院生が無給で医師の仕事をしています。大学病院の医局に所属する医師の多くは、一度医師となり臨床現場で働いた後、数年してから大学院に入ります。医師を4~ 5年経験してから大学院に4年間通うのが、定番コースと言ってもいいでしょう。この4年間は大学院生ですから、学生として研究を行い、論文を書いて学位審査で認められれば「医学博士」となります。授業料を4年間納め、学生証ももらいます。

 しかし実のところ、かなりの割合の医局では丸々4年間、学生をさせてくれるわけではないのです。様々な理由で、4年間のうち1~ 2年は医者として働く場合が多いのですね。このとき、「無給医」になってしまうケースが多々あります。