時間軸で俯瞰できる貴重な機会

 そしてもう一つの俯瞰の軸は、過去-現在-未来という時間軸です。現在を知るだけでは、未来は見えません。歴史的な流れを知って初めて、これから10年、20年、そしてもっと長いスパンで何が必要かを考えることができるのです。私の出ている多くの講義では、歴史から話をしてくれます。

 ただ、今後の展望についての教官の意見はあまりないため、自分なりに答えを考え、講義中に「今後はどうなっていくとお考えですか」と質問することにしています。これを、その道のプロに聞くことができるのは素晴らしい機会です。

 例えば、先日私は医療経済学者から費用対効果の研究手法を学び、実習し、さらには研究トレンドを聞きました。そして厚生労働省のお役人さんの講義では今役所がどう考えていて、これからどういう方向に行くかを尋ねました。つまりアカデミアと行政の双方から医療を見ているのです。おそらくこれ以上に正確に把握することはできないでしょう。

 恥ずかしながら私が臨床医のころは、費用対効果の議論が厚生労働省で始まっていることすらほぼ知りませんでした。しかし今ならば、本邦と諸外国の現況、そして今後の予想まで述べることができます。

もう一つの理由は「臨床研究」

 私がメスを置いたもう一つの理由、それは「臨床研究の手法を学ぶこと」でした。臨床研究とは、例えば「大腸がんの患者さんで、タバコを吸う人と吸わない人で手術の合併症がどう違うかを調べる」といった研究です。実験室ではなく、実際の患者さんのデータを用いて、実際の治療に役立てられる結果を求める研究です。これを専門的に学びたかったため、京大の公衆衛生大学院に来たのです。

 ここでは、まず自分が持った「なぜ?」を研究できる形に落とし込み、その研究デザインを考えるというトレーニングをしています。漠然としたギモンをちゃんと受け止める研究デザインを作るのって、実は簡単なようでとても難しいのです。ここに私たちは半年かけました。

 これを一人でやるのではなく、バックグラウンドが臨床医で私と同じように一時停止して京大に来ている同級生25人全員が各々の研究を作ります。そして毎週毎週お互いにプレゼンし合い、磨き上げていくのです。

 その過程で、プロフェッショナルたる教官が加わり、目からウロコの発言をバンバン投下します。実力差を見せつけられつつも、私たちは少しずつレベルアップをしていきます。その間、方法論の専門家や統計学の専門家から必要な知識を実装していきます。ここで練った研究は仮想プロトコルではなく、実際に各々のフィールドで実践していくのです。