社会に与えるインパクトを予測するのは困難

 3点目は、研究結果が社会に与えるインパクトが不明であるという点です。

 先日、本邦の本庶氏がノーベル賞を受賞したというニュースがありました。私はとっても驚いたのですが、それで小野薬品工業の株価が一時的に跳ね上がったそうです。小野薬品工業は本庶先生が発見したPD-1抗体に関連するオプジーボという薬を作った製薬会社です。本庶氏がノーベル賞を受賞したことが、小野薬品工業の企業価値を高め株価が上がるという判断だったのでしょう。が、オプジーボはいま日本でどんどん薬価が下げられていることや、オプジーボ以外の免疫チェックポイント阻害薬がすごい勢いで世に出て来ていることを考えると、申し訳ありませんが私なら到底、その判断にはなりません。ま、その後すぐに株価は落ち着いたそうですが。

 これがいい例かどうかは分かりませんが、少なくとも研究結果が社会に与えるインパクトを正確に測定するという行為は多くの人にとって難しいと思います。これは医学の専門家にとってもやはり困難で、おそらく測定できる人はほとんどいないでしょう。

 社会に与える影響は、なにもプラスのものばかりではなく、負の影響が起きることもあります。例えば生殖技術が進んだ結果、技術的には「産み分け」のようなことは可能になってきましたが、倫理的議論が置き去りになっています。これが進んで優生思想にならないかと私は懸念しています。

 この3点目については、私のような専門家もまた研究結果を十分に吟味せねばなりません。自然科学的重要さからただ単に「新しい技術」に飛びつくことなく、ある時は批判的に見つめなければならないと感じています。

 このような理由で、新しい研究結果は本当に解釈が難しいのです。しかも新しい発見から実際に病院で使える薬や技術になるまでにはいくつものハードルがあり、形になるものは一部なのです。我々専門家としても、安易な万歳は避けて批判的な視点が必要であると思っています。

 それではまた次回、お会いしましょう。