論文を理解するのは医者でも簡単ではない

 新聞やニュースを見ていると、よく「○○大学のチームが、XXX病の新しい治療法を開発」というような記事があります。おお、これはすごい、いよいよXXX病は新しい治療法が見つかっていくのか……などと思うのですが、残念ながら多くの場合、こういった報道は鵜呑みにしてはいけません。その理由は3つあります。

(写真=PIXTA)

 1つめは、研究の解釈が困難である点です。

 記事にはだいたい研究の概要が書いてありますが、その解釈は非常に難しく、残念ながら記事を書いた記者さんも理解できていないことが多いと思います。この難易度は非常に高く、例えば医者であればみな分かる、というものでもありません。

 私がいま通っている京都大学大学院では、「報道された記事で誤っているものを見つけて発表する」という課題や、「実際の報道記事を読み、誤りを指摘する」という試験があるほどです。社会医学の専門的な勉強をした人にしか、その研究内容の正確な解釈は難しいでしょう。

 恥ずかしながら私も京都大学大学院で勉強して、初めて知ったということが多々ありました。何かの研究結果(科学雑誌に載る論文という形で発表されます)をいかに批判的に吟味するか、その知識と技術はそれほど単純ではありません。そして論文や、その論文をまとめた医師などが読むガイドラインにも大きな問題を含んでいるものが少なからずあるという現実を知りました。

 さらには、捏造や不正があるかどうかを見極めるのは、同じ専門家にとってもかなり困難です。小保方晴子さんのSTAP細胞のときは、最先端の研究者がもろ手を挙げて「バンザイ、素晴らしい結果!」と言っていましたが、最終的には不正とされていますよね。

文脈まで分かるのは専門家1人につき1~2領域

 2つめは、文脈が分からないとその研究の重要性が理解できないという点です。

 1点目の研究内容が分かったとしても、それがこのXXX病の世界でどんな意義を持ち、その病気の治療にどんな影響があるのかは、XXX病の専門家にしか分かりません。これがどのくらいのスケールの専門家かというと、基本的には、広くても1専門家について1~2領域くらいでしょう。

 例えば私で言えば、外科・大腸がん・感染症などの専門家ですので、同じ「消化器」という領域の癌についての文脈はある程度分かります。すなわち胃がんや肝臓がん、膵臓がんなどはその治療の歴史的変遷を知っており、新しい研究結果がどのような意味を持ち、今後の治療現場がどのように変わるか(あるいは変わらないか)が分かります。

専門領域ならこぼれ話まで聞こえてくる

 これが大腸がんについてとなると、さらに「ああ、あそこの大学の先生、この研究をずっとやってるとは知っていたが、ついに結果が出たか。これで大腸がんの患者さんの5%くらいはまあまあな恩恵を受けられるかもしれないな。ま、それでもあんまり政治力はないし、マーケット的にも製薬会社が薬の開発にいくかどうかは怪しいなあ」なんてレベルで解釈ができるわけですね。ついでに「あれ、ホントはもっと早く結果が出るはずだったらしいけど教授のストップで今になったらしいよ」などという研究こぼれ話まで聞こえてくることもあります。

 しかし、先日行ったESMOという学会でもそうでしたが、乳がんや肺がんの最新の研究結果を文脈から解釈するのは正直あまりできません。そしてこれががんではなく、例えば関節リウマチや統合失調症などという別分野になれば文脈は全く分からない、ということになります。

 その意味では、医学の専門家よりは記者さんの方が文脈を幅広く把握していると思います。関係者のことも取材というかたちで知っていますから、情報は入りやすいでしょう。