がん細胞という他者の狡猾さ

 さて、ここで本庶氏の功績に話が近づきます。先程から言っている「他者」には、がん細胞も含まれます。がん細胞は基本的に細胞の中にある指令センター「遺伝子」をおかしくします。遺伝子は細胞の働きやその寿命を規定しますから、遺伝子が変になった結果、細胞のいろいろなふるまいも異常になるのです。いちばん困る異常なふるまいは、「どんどん勝手に増えていくこと」です。無秩序な増殖は、人間の正常な機能を破壊します。例えば胃の出口にできたらご飯が通りづらくなりますし、脳にできたら狭いスペースにある脳全体が圧迫されて症状が出ます。

 こういったがん細胞は、免疫チームから当然他者として認識されます。しかし、ここからががん細胞の狡猾なところ。がん細胞は、なんと自分が異物であるというマーク(がん抗原と呼ばれます)を隠し、攻撃されにくくするのです。さらには、がん細胞は免疫細胞のある部分に結合してその機能にブレーキをかけるのです。まるで犯罪者集団が警察署の電源を爆破し全ての出口をロックしているようです。

 がん細胞はPD-L1という手を出して、免疫細胞のPD-1という手と握手します。この握手が成立すると、免疫細胞はブレーキがかかり正常に作用しなくなってしまうのです。このブレーキをかけるために結合している部分のことを、免疫チェックポイントと呼びます。
 本庶氏が発見したのはPD-1というタンパク質で、1992年、氏が50歳の時のことでした。この功績により、今回のノーベル賞受賞となったのです。

そしてオプジーボの開発へ

 このシステムを逆手にとり、ブレーキをかけさせなくするための薬が免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬で、オプジーボが代表的です。

 オプジーボは非常にたちの悪い皮膚がんである悪性黒色腫や肺がんに高い効果を示しましたが、どちらかというとそのあまりの価格の高さで話題になりました。平成27(2015)年12月の肺がん承認当時、1カ月で300万円を超える額が設定されたのです。この衝撃に、国内の多くの医師が危機感をあらわにし、反発しました。

 その結果、徐々に値段は下がり半額以下になりました。それでも、小さな1瓶が約30万円もするので、病院の薬剤師さんは落っことして割らないようヒヤヒヤしながら扱っていました。

 薬価の設定についてはまた別の議論になりますので、またいつか。

 今回は、ノーベル賞受賞の本庶氏の研究とその成果について解説しました。それではまた次回、お会いしましょう。

謝辞)
最後に、本庶氏のエピソードを教えてくださった、京都大学医学部卒の外科医・武矢けいゆう先生に感謝申し上げます。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「外的から自らを守る」としていましたが、正しくは「外敵」です。また本庶氏がPD-1を発見したのは「氏が40歳の時」としていましたが、正しくは「50歳」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2018/10/3 14:30]