産休・育休は予測しづらいとはいうものの……

3. 病院経営者

 次に、病院経営者の視点としては、医師数は病院経営の最重要項目となります。医師がいなくなれば、病院は必ずつぶれます。過去に、教授の怒りを買うなどして派遣されていた医師を一斉に引き上げられ、つぶれた病院はいくつもあります。

 その立場からは、先程述べたように安定した戦力供給という意味で、女性医師は不利です。経営者から見ると、女性医師の因子として、産休・育休という予測しづらいものがあるからです。事実、少し前までは大学医局に女性が入局する際、「専門医を取るまでは妊娠しないこと」「30歳までは妊娠しないこと」などと約束させられていたという衝撃的な話があるほどです。ひどいお話ですが。

 どれほど人手がギリギリのところで回しているんだ、と思われるでしょう。しかし、本当にギリギリのところで回している現場は少なくないのです。

写真:アフロ

女性医師がキャリアを積むのは難しい

4. 国全体の医療

 最後に、では日本全体の医療という視点で見るとどうでしょうか。
 医療費はどんどん増えていき、このまま放っておくと医療費で日本は沈没してしまいます。それを防ぐために、コストのかからない医療がこれから必要になってくるのは間違いありません。

 その意味で、いま必要なことは「女性医師を生み出さない」ことではなく、女性医師が途中妊娠出産子育てなどで中断しても、どう一生涯を医師として働いてもらえるかという点です。女性医師にとって、出産や子育てを経験しながら、しかし医師としてキャリアを構築することは、現在は容易ではありません。女性医師は男性医師と結婚することが多いのですが、その男性医師が多忙すぎて妻は医師として復帰せず、そのまま専業主婦をせざるを得ないケースも私の周りには数組います。これは日本全体の医師数という意味で大変な損失です。

 医師でタレントの西川史子氏がこの問題について、女性医師の割合が増えたら「世の中、眼科医と皮膚科医だらけになっちゃう」(参考記事)と言ったそうです。確かに、女性医師が労働環境の悪い(=患者の生命に直結する)外科などを敬遠し、緊急で呼ばれることなどの少ない眼科や皮膚科を選ぶ傾向にあることは事実です。

 これは科ごとに見た女性医師の割合です。皮膚科は46%、外科は7.8%ですが、外科の中でも特に過酷な心臓外科、消化器外科だけを見ると女性外科医は1%程度なのです。

 そして、女性医師がどんな科を選ぶかについて、こんな調査結果があります。
これで見ても、皮膚科眼科がトップに来ており、右下は外科が並びます。

東京医大出身の女性医師はどう見た

 本件について、東京医大出身の女性医師にお話を伺いました。すると、「母校がこのようなことをしていて、悲しいに尽きます。大学の医学生はみな仲が良く、母校のことが好きな卒業生が多いので……」とのことでした。また、「私は合格したので言えますが、私の時にもこういう差別をしていて落ちた人がいたなら浮かばれないと思います」とも言っていました。

 東京医大出身の医師は私も大勢知っていますが、その多くは母校が好きで、とても出身者同士の仲が良い印象です。それだけに、母校のあのありさまは悲しいのでしょうね。

最後に提言

 この問題を深掘りしていくと、医療費の問題にぶち当たると私は考えます。例えば、日本にもっと潤沢な医療費があり、病院へ診療報酬が多く支払われれば、病院はさらに医師を確保できます。そうすれば、チームのうち1人の医師が休みを取っても現場は崩壊しないでしょうし、代わりの医師を雇うこともできます。

 ですから、

  • 医療費をさらに増やす
  • 科ごとに定員を設ける
  • 医師の給与(時給)を減らしてその分、人数を増やす

このあたりが現実的な解になるでしょう。

 いずれにせよ、東京医大の問題はこの大学だけの問題ではありません。日本の医療をこれからどうデザインしていくか、大局的な視点での議論が必要です。

 それではまた次回、お会いしましょう。