50歳代の女性医学部受験生が起こした訴訟

 さらに、国公立は本当に公平な受験を行っているのか、という疑問も存在します。何をもって公平と言うかによりますが、国公立は「地元枠」という、地元出身者が合格しやすい枠を持っているのです。例えば、旭川医科大学は北海道特別選抜と推薦として、50人の定員を設定しています(参考記事)。全部で112人ですから、かなりの割合です。一方で熊本大学医学部は定員115人ですが、わずか5人の地域枠推薦です。これでは、熊本に住む受験生としては「北海道に住んでいれば良かった!」と思いそうですね。

 また、以前50歳代の女性受験生が群馬大学医学部の不合格を「年齢による差別」として訴訟を起こしたことがありました。「筆記試験で合格者平均を10点以上も上回っていた」と言われており、面接で不合格にされたようですが、その理由は開示されないままでした。真実は知るべくもありませんが、年齢が減点対象になっていた可能性はあります。

「女性医師は無能」と考える男性医師は多くない

2. 男性外科医である私

 さて、男性外科医としてはどうでしょうか。ここ日経ビジネスオンラインの人気コラムニスト、河合薫さんはこの記事で、「『女性医師というだけで差別する男性医師がいる』という言葉の奥底には、女は面倒くさいという感情と『女性医師は無能』という偏見が混在しているのではあるまいか」と指摘しています。

 はて、自分はどうだろうか……と胸に手をあてて考えてみました。私は過去に15人ほどの女性医師と同じ職場(外科です)で仕事をしたことがあります。が、これまでの経験上、女性だから無能だと感じたことはありませんでしたね。そして女性医師が無能だと思っている男女医師にも、会った記憶はありません。ま、たまたまそうだったのかもしれませんが。

 指導した女性医師たちを振り返ってみると、

  • きめ細かく、抜けのない仕事
  • 患者さんに、とにかく寄り添う
  • 手術の時には明らかに男性医師より大胆なメスさばき

という印象があります。もちろん個々人で異なるのですが。

 ただ、「女は面倒くさい」ではありませんが、「女性には特別な配慮が必要だ」と思うことはあります。例えば夜22時に緊急手術が終わり、そこから振り返りを兼ねて一杯行こうか、と思ったときに女性だと誘いづらいもの。さらにはその翌日は朝6時くらいからは患者さんを診てね、とも女性医師には言いづらかった記憶があります。夜遅くや体力という面では配慮が必要だなと思っています。

 私の意見では、「女性医師は無能」と考えている男性医師はそれほど多くないように思います。

 その一方で、安定した戦力供給としては女性医師が不利であることは事実です。理由はただただ体制が整っていないからなのですが、産休・育休をチームの女性医師が取ると、その分の業務負担は男性医師に来るのです。当直を月5回やり、土日もすべて働いてギリギリ自分の家庭も保っているような状況で、女性医師が休み(あるいは辞め)、当直が月7回になる。人は増えない。これでは、女性医師への私怨が募ってしまう男性医師もいるのではないかと推測します。

 問題は、過労死ラインを遥かに超える労働時間で働いていて、そこから人が減っても補充される体制や予算がないことの方にあります。

 その一方で、女性医師が多い現場でうまく分担や効率化をすることによってきちんと現場を維持できている職場があります。例えば、大人数いる産婦人科などがこれに当てはまります。それを考えると、女性医師が多くなれば現場は工夫してちゃんと良くなるという気もします。しかしその仕組みができないと、女性医師が増えないという、ニワトリとタマゴの状態になっているのかもしれません。

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