訃報にまず思ったことは「危ない」

 そしてあの土曜日、報道を受けて、夫の市川海老蔵さんが記者会見を開きました。それを見ていて、私が最初に思ったこと。それは、「危ない」でした。

 何が危ないのか。それは、ただ一点「がん患者さんとその家族が精神的に激しく揺さぶられる」に尽きました。医者をやっているとよく出会うのです。外来に通院するがん患者さんが、有名人のがん報道や訃報を聞くたびに激しく動揺なさっているところに。

 「先生、ナントカさん大腸がんだって。俺と同じステージだけど、俺もいずれそうなるのかな」

「あの人、誤診されて、気づいた時にはがんがだいぶ進んじゃったって週刊誌に書いてあったんですけど、私は大丈夫なんですか?」

 こういう風に言われることは少なくありません。ですから、きっと小林麻央さんの訃報を聞いて激しく心揺さぶられている人は多いに違いない。そして私には10歳以上歳下の、がんと闘っている大切な友人がいます。

 私は決意しました。書こう。これも私の医者としての仕事だ。

世間の人が抱いているだろう2つの「勘違い」

 そしてすぐに、公開されるまでのスピードが速い媒体に私は書きました。「小林麻央さん逝去に がん専門医が思うこと」という記事です。

 この中で私は2つの重要な点について書きました。世間の人が恐らく勘違いをしていて、そのせいで恐怖を感じているだろう2点です。それは、

1. がんのラストシーンは悲惨じゃない
2. がんの性質や患者さんの病状というのは、人それぞれ

になります。

 簡単に1から説明しますと、がんのラストシーン(いわゆる末期ですが、私はこの言葉が嫌いなのでラストシーンと言っています)というものは、世間でイメージされているほど現在は辛く悲惨ではないのです。それは「緩和ケア」というものがかなり普及したことが挙げられます。

 例えば痛みであれば、かなりの部分の痛みをオピオイド(医療用麻薬)が取ってくれます。それ以外にも精神的な苦痛にまで少しずつ医療は対応してきています。

 2はそのままで、たとえ同じがんの同じステージだったとしても、どんな経過になるかというのは実に人それぞれです。がんは思ったより非常に多様で、手術でパッと治るタイプから抗がん剤が効くタイプ、途中で突然効かなくなるタイプなど本当に多様なのです。ですから、小林麻央さんがああいう結果だったからと言って、同じ乳がんの同じステージの人がみな同じ結果であるとは限りません。

 だから、「必要以上に恐怖を感じなくてよいのです」と伝えたかったのです。それをがん専門の医者として言いたかったのです。