「ご説明に使う時間が足りない」

 私はインフォームド・コンセントに強い不満を持っていますと言いました。不満の一つは、「ご説明に使う時間が足りない」点です。

 私はこの解決法を考えました。早口でやる……それでは、ご高齢の患者さんは聞き取れない。では、何人かまとめて、同じ手術の方は一緒にご説明する……それではプライバシーが保たれない。

 悩んだ揚げ句、補助説明用の動画ビデオを作成しようと考えています。ビデオなら、実際にどんな手術をしているのか、どんなキズがつくのかをお見せできます。また、分からないところは何度でも繰り返し見ることができます。さらには、ご自宅に持って帰っていただくことで、説明に同席できなかったご家族も一緒に見ることができます。考えれば考えるほど、良いことだらけです。

 そしてこの方法は、われわれ医者にとっても良いことがあります。まず、説明に要する時間が短縮できる可能性がある。そして、動画なので患者さんは理解がしやすくなる。患者さんの理解が深ければ、縁起でもありませんが術後に合併症が起きたときの説明もだいぶしやすくなるはずです。

ただの訴訟逃れにしないために

 インフォームド・コンセントは近年、真の意味を失い、ただの「訴訟逃れ」になっているという批判があります。これは私も耳が痛い話です。確かに、医療訴訟は医者がもっとも恐れることの一つです。私は本格的に訴えられたことはありませんが、周囲に経験のある医者は何人もいます。

 訴訟でよく見られるのは、「説明義務違反」というもの。これは、治療がまずかったわけではないのに、説明不十分であった場合に責任を問われます。印刷した紙を渡しただけでは、説明したことにはなりません。たとえ未確立の治療であっても、患者さんの要望が強くその治療をした経験が医者にある場合などは、「言い忘れ」も説明義務違反になります。

 医療行為は、人間という自然を相手にする非常に予測が難しいもの。ですから、「そんなこと初めて見た」というような良くない出来事が珍しくなく起きるのです。例えば、お腹の手術後に脳梗塞になった患者さんがいました。肺塞栓で亡くなった患者さんがいました。手術の数日後に廊下で転んで足の骨を折った方がいました。それら全ての可能性をお伝えすることは、不可能に近いのです。

 しかしながら、無用な係争を避けるためにも、インフォームド・コンセントはしっかり行わなければなりません。一方で、訴訟を避けるための説明に終始してしまっていないだろうか。私はいつも自問自答しています。

(特別編終わり。次回より通常連載に戻ります)