この説明、伝わっているのだろうか?

 私は、インフォームド・コンセントをほぼ毎日行っています。外科医なので、手術の説明をし、同意書にサインをいただき、手術を行うというサイクルです。私はいつも疑問に思っていることがあります。それは、「私の説明は、目の前の患者さんにどのくらい伝わっているのだろうか」ということです。

 医療の世界は専門用語がとても多い業界です。専門用語を噛み砕いて説明しようにも、背景となる知識がなければ、理解することは難しいのです。

 例えば、スパゲッティーをゆでるときを考えてみましょう。料理をしたことがある人には、「鍋に水を入れて沸騰させ、スパゲッティーを袋から出して入れます。吹きこぼれに注意しながら、12分ゆでたらザルにあげます」と言えばすぐに想像がつき、スパゲッティーをゆでることができるでしょう。

 しかし、料理をまったくしない人に同じ説明をしても、「スパゲッティーはどれくらい入れたらいいのか」「吹きこぼれには、どう注意すればいいのか」という疑問がわきます。さらに、スパゲッティーを食べたこともない人には、「袋から出して、それを洗った方がいいのか」「鍋ってどれくらいの大きさで、水はどれくらい入れればいいのか」と分からなくなるでしょう。

インフォームド・コンセントの理想と現実

 手術の説明でも同じことが言えます。

 例えば、大腸がんの手術の説明を考えてみましょう。

 「ラパでシグマだったよ。5ポートで、へそに小切開。郭清はIMA根部で切って吻合はファンクショナル。出血はゼロ」

 外科医同士だと、こんな立ち話で9割の手術内容は伝わります。ですが、これを他の科の医者に伝えようとすると、どうなるでしょうか。同じ外科系ならまだしも、内科や皮膚科の医師にはかなり詳細な説明が必要です。例えば、

 「ポートを5個入れ、腫瘍を取り出す時にはへそを4cmくらい切って開けます。リンパ節郭清は下腸間膜動脈を根元で切り、その辺りを全部取ってきます。腸と腸の吻合は、機械を使った機能的端々吻合という方法です」

 では、患者さんにお伝えするときはどうなるか。

 「まず、人間のお腹の中には大腸という腸があります。(絵を描いて)それはこのようにお腹の中にあり、主に水分を吸収する働きなどをしています」 と、初めに大腸の紹介をします。そして、

 「あなたのご病気は大腸がんで、この絵のこの辺りに病気があります。これは大腸の壁のここまで食い込んでいるので、手術で取らなければなりません」

 と、大腸がんの場所、そして手術の必要性をお話しします。ここから、手術の具体的な説明をするのです。私が通常、大腸がんの手術前の説明にとっている時間は1時間です。その中で、人体の構造から、術後の経過、生存率までお話ししています。

 周りの外科医に聞くと、1時間という説明時間は平均的か、やや長い方のようです。正直なところ、この時間では全然足りません。しかし、他の業務をやりながらだと、これくらいが限界なのです。