こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。京都大学大学院でただいま勉強中です。

 こちら京都では梅雨はどこ吹く風、凄まじい暑さが襲っています。気温は他の土地と変わりませんが、「風がない」「湿度が高い」のが特徴的です。

 実は医学的には「暑さ」とは「暑さ指数」として熱中症の危険度として表現され、気温だけでなく風速・湿度・日射量で決まります。

 さらに専門的には、

WBGT(暑さ指数)=0.735×Ta+0.0374×RH+0.00292×Ta×RH+7.619×SR-4.557×SR2-0.0572×WS-4.064(環境省の「熱中症予防情報サイト」より)

と算出します。Taは気温(℃)、RHは相対湿度(%)、SRは全天日射量(kW/m2)、WSは平均風速(m/s)です。

 さて、この連載は前々々々々々回から、特別編「医者の本音」シリーズとして全8回で毎週お送りしております。

 「余命3カ月のがんが治った! 奇跡の食事法」

 本屋さんに行くと、健康本コーナーが必ずあります。そしてそこには、こういった扇情的なタイトルの健康本が所狭しと並んでいます。インターネットを検索しても、「これでがんが完治した!」「抗がん剤はがんを増やす」のようなページが出てきます。テレビでも、「がんから奇跡の生還」なんて番組がありますね。

 がんからの奇跡の生還。こういったものを、現場の医者はどう見ているのでしょうか。

 私はがんの専門ですから、数多くのがん患者さんにお会いしてきました。その中には、まれですが医者にも信じられないような良い経過をたどった方もいます。

 医者がそういう患者さんに会った時、考えることは2つ。

  1. チャンピオンケース
  2. 誤診

 このお話は、できることならしたくありません。「なんて冷酷なんだ」と思われるかもしれないですし、患者さんの方の希望を奪うことになるかもしれないからです。しかし、感じたことを正直に書きたいと思います。

 もしこれをお読みの方で、現在闘病中の方やそのご家族などは、不快に感じる情報が含まれている可能性があります。本記事はあくまで医者である私がどう感じているか、そして「奇跡的に治る」頻度はどのくらいかを示しているものです。

たまたまうまくいったのでは?

1. チャンピオンケース

 これは医者同士でよく使う言葉です。「たくさんいる患者さんの中で極めて珍しく、すごく治療がうまくいった人」という意味です。多くの患者さんの中で「チャンピオンのように」素晴らしい結果だったので、チャンピオンケースと呼ぶのでしょう。ちょっと抵抗を感じる呼び方ですが。

 学会で、治療が素晴らしくうまくいった患者さんの事例を発表すると、「いや先生、それはチャンピオンケースですから」などと突っ込まれることがあるのです。その突っ込みには、「その方は治療がたまたまうまくいったけど、だからといってすべての患者に当てはまるわけじゃないですよね」くらいの意味が込められているのでしょう。

 うーん。果たしてそうなのでしょうか。

 現在の病気の治療法は、実に多くの先人の犠牲によって開発されてきました。無数の屍の上に成り立っているといっても過言ではありません。

 治療法の多くは、実に慎重に開発されています。

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