激務がもたらす弊害
医師が患者さんに「医者は冷たい」と感じさせてしまうのには、いろいろな医師の状況が影響しています。
中でも、「医者は、患者さんとコミュニケーションを取る時間が制限されている」のが重要な点です。では、どんなふうに時間が制限されているのか。具体例でお話しします。
一つめは、タイトなタイム・スケジュールです。
我々医者は、どんな科の医者であっても、きっちりと決まったタイム・スケジュールの中で動いています。外科医であれば、朝9時には手術室へ行かねばなりません。手術室では、その日に合わせて入院した患者さんが、麻酔をかけられて待っています。さらには、手術室の看護師(1件の手術で最低2人はいます)、臨床工学技士、そして助手の外科医といったスタッフが時間を合わせてスタンバイしています。
一人の外科医が、「すみません。担当患者さんが不安を抱えていたので、詳しい説明をして遅れました」というのは許されないのです。こうなると、朝7時半からの回診で、患者さんと詳しいお話をすることはできません。矢継ぎ早に質問をされても、「ええと、すみません。時間がないので、看護師に相談して、後日、私のアポを取ってもらってください」と先送りしてしまうでしょう。初めての入院で不安を抱えた患者さんにしてみれば、「冷たい態度だ」と感じるかもしれません。

2つめは、外来診察での業務過多です。
医者は1日に何十人もの診察をします。一人の患者さんとお話しできる時間は10分あればよいほうです(科によっても違いますが、外科であればそのくらいです)。
しかも患者さんとお話しするだけで、診察が終わるわけではありません。まず診察をカルテに記入します。
さらにお薬の処方、次回の外来の予約などがあります。一人の医者がパソコンで入力するのですから、時間がかかります。これに検査の予約もあります。そして傍には「待ち患者さん」の大量の外来ファイルが積まれていく……。
言い訳がましいといわれそうですが、この状況で詳しく患者さんが理解できるよう説明を繰り返すというのは、ちょっと無理があるのでは、と私は思います。
多忙な医者とうまく会話するコツ
最近は、業務過多を打開するために「代行入力」というシステムが入ってきました。これは、パソコン入力作業は事務の方が代行し、医者は患者さんとのコミュニケーションに集中するもの。残念ながら、まだ一部の病院、しかも一部の医師限定(部長など)で導入されているのが現状です。代行入力が広まれば、もっとゆっくり患者さんとお話ができるようになるでしょう。
では、時間がない医者への対策として、患者さんは何ができるでしょうか。私は次のことを提案させていただきたいのです。それは、
「あらかじめ医師に聞きたいことを、箇条書きでメモしておく」
非常に単純な話なのですが、メモするだけでずいぶん違います。「何が聞きたいのか」「何が不安なのか?」。医者がメモを見ればすぐにお答えできます。
ただし、初めての受診では「医師に聞きたいことさえ分からない」こともあります。そういう時には、下のシートを使ってください。病院によっては問診票がある場合も多いのですが、追加でこのシートも使うとより伝わりやすいでしょう。
- どんな症状が ( )
- いつから ( )
・ だんだん良くなってきた ・ 悪くなってきた ・ 同じくらい - 一番辛かったのはいつ?
・ いま ・ ( )日前 ・ ( )時間前 - どんな時にその症状は悪くなる? ( )
- いま一番困っていることは? ( )
- お医者さんに聞きたいこと ( )
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