指揮者不在のオーケストラ

 医者は本来、専門領域の薬しか出しません。患者さんは「おくすり手帳」を医者に見せますが、医者は薬が重複しないことをチェックするだけで、薬の数などあまり気にせずに処方することが多いのです。

 これはつまり、全体のバランスを考えるリーダーが不在であることを意味します。これでは、まるで指揮者がいないオーケストラのようなもの。いい演奏ができるわけがありません。「症状が出た→それに対する薬を出す」の繰り返しで、結果として患者さんは10種類以上お薬を飲む羽目になってしまうのです。

 しかしながら、実はここ数年、医学界でもこの状況を反省する動きが出てきました。主に高齢者に対して薬を出しすぎている状態を「ポリファーマシー」と呼び、不要な薬を減らそう、副作用が出やすい薬を高齢者に出すのはやめようという動きがあるのです。理由は、医療費削減もありますが、医学的にも薬同士が相互に作用し悪さをしているのではないか、という指摘があるからです。

たくさん処方してもむしろ経営には悪影響

 私が内科・精神科病院院長を務めていた時、ポリファーマシー対策を実践したことがあります。ガイドラインや数冊の教科書を読み、高齢者に投与を控えるべき薬剤(STOP)と推奨すべき薬剤(START)を学びました。そして、60人の内科患者さん一人ひとりのカルテを詳細にチェックし、「この薬は要らない」「これもやめてみて様子を見よう」と薬を減らしていったのです。その結果、およそ3~4割の薬を減らせました。減らす、あるいはやめた薬は、「胃薬」「利尿剤(尿を出しむくみを減らす薬)」「鎮痛剤」「睡眠剤」でした。ごっそりとやめましたが、症状にはほぼ何も影響は見られませんでした。

 しかし患者さん自身が「薬を減らしたい」と思っていても、なかなか主治医に言いづらいという現状もあるのではないでしょうか。

 もし患者さんから「薬を減らしたい」と言われても、医者はそれほど嫌な顔をしないのではないかと思います。

 ここは勘違いされやすいポイントなのですが、薬を多く処方したからといって医者の収入が増えるわけではありません。むしろ、多くの種類の薬を処方すると、病院の収入は減る仕組みになっています。具体的には、7種類以上を処方した場合の処方料が約31%(42点→29点)、処方せん料が約41 %(68点→40点)、低くなります。これは、厚生労働省による医師の多剤の処方を抑制するための措置です。

 ですから、病院経営という視点から考えれば、薬は7種類を超えない方がありがたいのです。しかし、だからといって「経営のために患者さんの薬を減らそう」と思う医者はそれほど多くありません。