「患者さんの生命ファースト」が基本

 こんなブラック企業も真っ青の外科医という仕事ですが、なぜこれほど多忙なのでしょうか。その理由は(1)業務そのものの性質、(2)手術件数の増加、(3)外科医数の減少、の3つにあると考えられます。

 まず(1)の業務そのものの性質。

 我々外科医は基本的に、「手術をしなければ生命が危うい」という疾患を持つ患者さんを相手に仕事をしています。手術は、患者さんの体に一定のダメージを負わせて実施する「激しい治療」。全身麻酔で行う手術であれば、筋弛緩剤を使って患者さんの呼吸を一時的に停止させます。

 手術をしたらそれで終わりというわけでもありません。術後、患者さんの状態は不安定になります。血圧が下がったり、尿が出にくくなったり、止血できていたはずなのに後で大出血することだってあります。看護師さんが見ていてはくれますが、基本的に医療行為はできないため、医師が張り付くことになります。

 つまり外科医は、かなり「濃厚な医療」を提供しなくてはならないのです。「濃厚な」とは「熟練の外科医が患者さんを付きっ切りで見る」という意味。現場を離れられないため、必然的に業務時間が長くなります。

 さらに外科医の仕事は、完全に「患者さんの生命ファースト」。間違いなく緊急手術をした方がいい患者さんが目の前にいたら、「オレ、今日は結婚記念日だし奥さんが料理作って待ってくれているから帰る」と言って帰る外科医はいません。米国では保険証の種類(ランク)によって手術をするかどうかが変わりますが、日本では基本的に、あらゆる理由に優先して、手術が必要な患者さんには手術をします。

高齢化が進むほど手術件数も増える

 次に(2)手術件数の増加です。

 日本全体の高齢化がすさまじいスピードで進んでいるため、がんなど手術の必要な疾患を持つ人口が急増しています。多くのがんでは50~70歳くらいが発症しやすい年代になりますから、その年代の人口が増えれば増えるほど手術件数も増えます。

 次のグラフはがん(悪性腫瘍)の手術件数と一般病院数の推移を示したものです。

消化器・乳腺・腎悪性腫瘍の手術件数と一般病院数の推移
消化器・乳腺・腎悪性腫瘍の手術件数と一般病院数の推移
出所:厚生労働省「平成26年(2014)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」を基に筆者が作成
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 これを見れば、がん(悪性腫瘍)の手術件数が年々、増えていることが分かります。2002年の水準と比べて2014年は、ほぼ倍となっています。

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