睡眠不足では手術の質が下がって当たり前

 外科医が眠い中で手術を執刀すると、そのクオリティー(質)はどうなるのでしょうか。もちろん、明らかに低下します。

 「いや、俺の時だけは前日、よく寝てくれよ」

 読者の皆さんはこう思われることでしょう。

 当直明けの手術は質が低下する――。至極当然のことですが、何十年もの間、誰も公言してきませんでした。それは外科医の矜持でもあり、体制側(厚生労働省)のコスト意識でもあったのだと思います。外科医の矜持は武士のそれととてもよく似ていて、「武士は食わねど高楊枝」ならぬ、「外科医は眠らねど余裕で執刀」という文化が脈々と続いてきたのです。

 長年にわたってこの慣習は変わりませんでしたが、最近になって「当直明けの外科医の執刀は手術関連の死亡を増やす」という論文(Taffinder NJ, et al. Lancet 1998;352:1191)が発表されたこともあり、厚生労働省はあるルールを作りました。「当直明けの外科医が手術を執刀しない病院は加算(お金)を付ける」というものです。

外科医の9割は「過労死ライン」超え?

 この新ルールは全くニュースにならなかったばかりか、実際に採用している病院もわずかだと考えられます。しかし、私の勤める病院では外科医が多いこともあり、明けの外科医は基本的に執刀しないことになっています。

 待遇とか外科医の労働負担軽減というより、医療の質の担保のためにそうしているという印象を私は持っています。明けの外科医をそのまま働かせた方が病院経営の視点ではいいに決まっていますし、外科医も絶対に文句を言わないことが分かっているからです。ちなみにこの新しい加算は執刀医にならなければいいだけで、手術の助手になるのはOKです。

 調査したわけではありませんが、当直明けの日の朝、帰宅できる外科医は日本中探してもほぼいないでしょう。

 「労働基準法を守っていないじゃないか!」というご指摘も、その通りです。外科医の9割は厚労省の定める「過労死ライン」の労働時間を軽々と超えているというデータもあります。また定期的に労働基準監督署がさまざまな病院をガサ入れすると、数億~十数億円の残業代未払いを指摘される病院が必ずと言っていいほど出てきます。ついこの間も、某有名ブランド病院が10億円を超える残業代未払いを指摘され、ニュースになりました。

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