手術中に居眠り? 助手ならあり得ます

 「おい、お前! 何寝てんだ」

 こんな怒り方はしないものの、疲れ切った研修医が手術中に寝てしまうことはあるものです(まだ当院では見たことがありませんが……)。3番目か4番目の助手をしている時は何もしないで見ているだけなので、彼らも眠くなってしまうのでしょう。

 そうでなくても外科医は、しばしば徹夜明けで手術を執刀します。もちろん私も、過去に何度も経験があります。完全な徹夜でなくても、睡眠1時間とか2時間で手術なんてことは、間違いなく外科医全員が経験のあるところなのです。

研修医や若手の外科医のための練習用の血管。これで結紮(けっさつ、糸を結ぶ技術)を学びます
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 なぜ外科医は、徹夜明けで手術をしなければならないのか。不眠症? いいえ、「当直」です。

 当直という勤務形態は「宿直」と似た意味で、病院に泊まり込んで何か問題が発生した時に対応することを指します。一部の科ではしていないところもあるかもしれませんが、外科医に限らず基本的に全ての勤務医が週に1~2回は当直を担当します。医療法により、病院には常に医師がいなければならないと決まっているためです。

 当直の日は、夜中に来院する(救急外来の)患者さんの治療をする上、入院患者さんに何か起きた場合もすっ飛んで行って対応します。救急外来の患者さんが一晩に30~40人も来るような病院もありますし、受け付けていない病院もあります。

 夜中に患者さんがひっきりなしに来たり、かなり重症の患者さんが来たりすると、そのまま緊急手術になるなどして、医師はほぼ徹夜で働き続けることになります。当直の前と後にも通常勤務をするため、当直明け(病院では短く「明け」と呼びます)には連続24時間の勤務が終わったことになるわけです。

帰りたくても帰れない外科医の実態

 ではここで、当直明けがどのような状況かをのぞいてみましょう(フィクションですが、限りなくリアルです)。

 午前4時半。夜中から立て続けにやってきた救急車や熱を出した入院中のお子さんの対応がようやく一息つき、私は1階の救急外来室から明るくなったばかりの外に出ます。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、「うーん」と一つ、大きく伸び。鳥の鳴き声が聞こえるような気もしますが、本当に聞こえているのか幻聴なのかも分かりません。

 すると間もなく、看護師さんのこんな声で我に返ります。

 「先生、ホットライン(救急車からの受け入れ要請)です!」

 血走った目とベタベタの髪ですが、「オシッ」と気合を入れ、救急外来室に戻ります。目の前に現れたのは、朝だというのに酔っ払いの患者さん。その患者さんに「なんだよー、テメエ!触るんじゃねえよー」とか言われながら点滴を打ちます。

 1時間くらい仮眠をとったら、そこから翌日の通常業務が始まります。午前7時半から回診をし、9時から手術。「今日のオペは5時間の予定だけど、あんまり出血しないといいな……」などと思いながら手術室に入ります。

 手術が終わると、患者さんのご家族に手術内容の説明。そして、夕方からは院内のリスクマネジメント会議に出席し、ここでついコックリコックリとしてしまいます。

 会議が終わると、午後6時過ぎ。今度は夕方の回診が始まります。「さあ、今日は明けだから帰るぞ!」と思っていると、内科医からこんな電話が入るのです。

 「先生、すみません。虫垂炎(アッペ)の患者さんがいて、手術のお願いなのですが……」

 「今日は帰りたかったんだけどな」と心の中でつぶやきながらも緊急手術を執刀し、やっとのことで帰宅するのは午後10時――。

 これを外科医は週に1~2回、(人によりますが)58歳くらいになるまで続けるのです。年収はもちろん、他の科のドクターと同じです。

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