VXガスはサリンと同じ有機リン系化合物

 ではVXガスとはどのような物質なのでしょうか。私はある専門家に意見を仰ぎ、情報を得ましたが、それをそのまま詳細に書くことはためらわれます。VXガス・テロの参考になってしまう恐れがあるからです。この点を考慮して、ここでは調べれば誰にでも分かる範囲の情報で話を進めます。

 まずVXガスは、「神経剤」とか「神経毒」と言われる猛毒で、前述しましたが、オウム真理教がテロに使ったサリンと同じ種類になります。

 これは、ある身近なものとも同じ種類なのですが、何だか分かりますか?

 そう、農薬です。専門的には、これらは「有機リン系化合物」のグループに入ります。この事実は多くの医師に知られています。なぜなら、農薬を飲んで服毒自殺をする人が一定数いて、救急診療をやっていると遭遇することが多いからです。ちなみに私は大腸がんを専門とする外科医で、時々、救急診療にも携わっていますが、まだそういう患者さんに出会ったことはありません。

少量であれば薬にもなる

 薬は量次第で毒にもなる――。こんな話を聞いたことのある方は多いと思いますが、実はこの有機リン系化合物についても同じことが言えます。有機リン系化合物は、筋肉の低下する病気(重症筋無力症)の治療薬になるのです。私も、これと同じ作用を示す「ウブレチド」という薬を、大腸がんの手術後に一時的に尿が出づらくなる患者さんに処方することがあります。

 もしこの薬(というか毒)を極めて大量に体に入れたらどうなるか。実に多彩な症状が出現しますが、少ない量であれば瞳孔が小さくなり息が苦しくなります。量が増えると、吐いたり、流涎(りゅうえん、よだれがだらだら垂れること)が見られたり、汗をかいたりといった症状が出ます。

 さらに量が増えると、口や鼻から大量に水分が出て息ができなくなったり、けいれんを起こしたりして、意識が無くなります。そして死に至ります。

 ちなみに、この辺りの詳細な情報は、ある施設のホームページにあります。そこには、主要な化学剤(毒物のことです)や解毒剤についての情報がデータベース化されています。2000年に実施された九州・沖縄サミットの医療対策のために整備され、2008年の北海道洞爺湖サミットや2016年の伊勢志摩サミットで、情報が追加されたそうです。各国首脳などが来日するタイミングのたびに、こうして備えてきたのですね。

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