こんにちは、総合南東北病院の中山祐次郎です。先日、ヤフーニュースにこんな記事が載っていました。

 肝臓がんのため余命半年と宣告され、生命保険会社「アフラック」のがん保険CMにも出演していた山下弘子さんが亡くなったことがわかった。山下さんの夫が25日、公式サイトで報告した。
(日刊スポーツ 3/25(日) 11:19配信)

 この記事の山下弘子さんは、私の数年来の友人です。私は彼女のがんとの闘いを間近で見ておりました。妹のように親しくしていて、ほぼ毎週、連絡を取り合っていたのです。彼女は約6年の闘病期間を経て、3月25日に亡くなりました。この原稿は同日書いているため、私はまだ動揺しております。ですから、今回は⾮常に感情的なお話です。これを、医学の世界ではnarrative、物語的と言います。私はがんの専門家として、普段はエビデンスを核としたEBM(Evidence based medicine、根拠に基づく医療)による医療を行っています。が、実はがん治療に欠かせないのはNBM(Narrative based medicine、物語と対話に基づく医療)です。EBMとNBMは、車の両輪のようにどちらもがうまく動いて初めて治療をすることができるのです。特にがん治療の場合、それは顕著です。

 そこで今回は、物語的な心の動きを書き出したいと思います。

きっかけは「富士山に登らない?」

 弘子さんと初めて出会ったのは、ある女友達が私に「富士山に登らない?」と誘ってきた時でした。女友達は、「弘子が富士山に登りたがっているので、一緒に登ってくれる医者を探している」とのことでした。弘子さんが肝臓がんに罹患し、今も化学療法中であると聞いた私は、非常に悩みました。そんな病人と富士山登山なんて大丈夫なのだろうか。もし登山中になにかあったら責任は取れるのか。そもそも、そんな人が登っていいのだろうか……。

 さんざん悩んだあげく、私は行くことを決めました。そして当日、初めて彼女に会った私は驚きました。ショートパンツからすらりと出る脚は、どう見ても22歳の女子。はしゃぐ彼女を見て、これなら大丈夫かな……と思いつつも、登山の時には「無理に登頂を目指さない」ことを第一にしました。ま、彼女は「何言ってんの、絶対登るよ」と言っていましたが……。