70歳以上の高齢者に多い「せん妄」

 最後に、「環境の変化」がどれほど人の健康に悪影響を及ぼすかについて。特にご高齢者への影響は、大きいと言わざるを得ません。

 これもあまり知られていないことですが、高齢者は若い人(ここでは70歳以下の人)に比べて環境の変化にとても弱い傾向にあります。たとえ避難生活をしていない場合でも、高齢者が病院に入院すると環境に大きな変化があるため、一時的に「せん妄」と言われる状態になることが医師の間では知られています。

 せん妄とは、簡単に言えば「一時的にだが自分が今、どこで何をしているか分からなくなってしまう状態」のこと。せん妄になると会話はできない上に、大切な点滴や尿の管を自分で引き抜いて出血させてしまったり、真夜中にベッドから出歩いて廊下で転んでしまったりということが起きます。一時的な環境の変化でも、かなりの高頻度で起きるのが、このせん妄なのです。私の肌感覚だと、80~90歳で4人に1人、90歳以上だと2人に1人くらいはなってしまう印象です。

 一時的な環境変化でもこうなるのですから、1年以上にわたる「避難」という環境変化がいかに大変なことか、お分かりいただけると思います。

震災はまだ終わっていない

 私が診ていた患者さんの中にこんな方がいました。その方は震災前、子供に元気にそろばんを教える先生でした。避難生活が始まると、認知症が急速に進行し、たった1年で会話はできなくなり、食事や排泄は全て介助という状態になってしまいました。

 他にも避難中、高血圧や糖尿病が悪化した方がいました。避難を終え、帰郷してからはだいぶ良くなってきた方がいる一方、避難先で亡くなってしまった方もかなりの数に上ります。

 「避難」がどれほど身体的・精神的ストレスにつながるか、そして、どれほど健康を害する要因になる得るか――。大地震と、それに続く原発事故から丸6年。よく言われることですが、まだまだ災害は終わっていないのです。

 私は原発に対して、現時点では賛成でも反対でもありませんが、ひとたび事故が起きると、このように近隣の地域の人々の人生と生命を破壊するという客観的事実だけは、きちんと伝えていきたいと思っています。

 今度、原発内部を見学に行く予定です。医者が原発内部に入って解説したということはまだ無いと思いますので、そちらもまたリポートしたいと考えています。

この柵の向こうに、福島第一原発はあります