試験はどんどん難しくなっているらしい

 後からほかの大学の学生と話すと、やはり私はあまり勉強をしていない方でした。別に頭がいいわけではないのですが、要領が良かったのかもしれません。

 しかし、現在ではこんな短い勉強時間ではまず受からないようです。今年受験した医学生さんにインタビューしたところ、「5年生の間は1日2~3時間、6年生の春から夏までは1日5~6時間、夏以降は1日15時間くらいのペース」で勉強したそう。明らかに私よりはるかに長い時間勉強しています。

 なぜ勉強時間が長くなっているのか? その理由は、問題が難しくなっているからです。実際、私は今年の国家試験をちょっと解いてみましたが、明らかに私が受けた10年前より難しいのです。この、問題が難化している理由を、今年受けた医学生のしめさばさんに伺ったところ、以下の3つを指摘してくれました。

  1. 医学の発展に伴い、覚える知識が増えている
  2. 出題内容が実際の臨床現場を意識したものになっている
  3. 予備校教材の普及による受験生の知識インフレ

 医学は日進月歩で進みますから、1は当然でしょう。2は、どんどん出題内容が変わっています。私が受けた頃は「この病気にはこの薬」くらいを覚えておけば良かったのですが、今では「こういう病状なので、薬を増やす・あるいは中止する」という、現場レベルの能力が求められます。これは、従来は医学生のうちにはそこまで学ばず、研修医になってから学ぶべき高度な内容でした。しかし、今はここまでのレベルが要求されるのです。

 3について。この試験は相対評価の部分が大きいので、「全員が解ける」問題が増えれば、さらに問題は難しくなっていきます。そして現在、ほとんどの受験生が国家試験の過去問学習や大学の講義に加えて、予備校から映像講義の教材を購入して勉強しているのです。前述の医学生しめさばさんによると、「これらの教材はよくできているため、しっかり勉強すると学習効果が高く、昨今の受験生は皆、膨大な医学知識を抱えて国試本番に臨みます」とのことでした。

合格率はコントロールされている

 ここまで、試験の難易度から合格率を論じました。が、大切なことをもう一つ指摘しておきます。それは、「医師国家試験の合格率は厚生労働省がコントロールしている」ということ。合格基準は毎年、試験が終わった後に発表されます。例えば、第112回の試験では、こんな具合です。

「必修問題を除いた一般問題及び臨床実地問題については、各々1問1点とし、総得点が、208点以上/299点」(厚生労働省ホームページ 第112回医師国家試験の合格発表についてより)

 この「208点」を上げ下げして合格・不合格を決めています。ですから、合格者数は毎年、政策に基づいて調整されているのです。厳密に言えば合格基準には絶対評価(絶対に8割以上の正答率が必要)の問題と相対評価の問題に分かれています。その中で、相対評価が上記した「208点」にあたる部分で、これを毎年変えることで合格率をコントロールしているのです。

 厚生労働省が合格率をコントロールする理由は、将来の需給に応じて医師の数を調整する必要があるためです。医師一人を養成するのには莫大なお金がかかり、一説では2億円とも3億円とも言われます。そんなコストのかかる医師を、過不足なく10年後(一人前になるには医学部6年+4年くらいかかります)に生み出すために、国家試験合格率を設定しているのです。

 あまり厚生労働省の悪口は言いたくありませんが、医師供給については失策が続いています。「余るから医学生を減らそう」としたら医師が足りなくなり、増やしていたら今度はまた余りそう、と。医師の需要数というのは、政治・経済・そして文化の変容もあり予測が非常に難しいのでしょう。そういう仕事も面白そうです。

 最後になりましたが、新生活の準備で忙しい中、丁寧にインタビューにお答えくださった新研修医のしめさばさんに、御礼を申し上げます。今回の記事は、ブログ「第112回医師国家試験を受けてみた」を参考にして書いています。

 以上、医師国家試験について分析しました。ではまた次回、お会いしましょう。

この記事はシリーズ「一介の外科医、日々是絶筆」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。