「勉強しすぎると落ちる」この試験

 1番目の理由は、「勉強不足だから」です。イメージでは、最強の頭脳を持つ東大医学部生であれば、大学の授業と実習だけで合格しそうなもの。ですが、大量の勉強をしなければ受からないのがこの医師国家試験なのです。それほど甘い試験ではない。合格率が高いとはいえ、全国の医学生が丸2年間かけて猛勉強するのです。

 2番目は、「情報不足だから」。この試験は相対評価ですので、「周りの医学生と同じ勉強をしていれば受かる」のです。しかも90%の合格率ですから、他の学生と同じ勉強をやればそうそう落ちない試験です。東大卒医師のインタビューでも、「コミュ障が落ちる」と言っていました。友人がいなかったり人付き合いができなかったりするタイプだと、情報が回って来ずに落ちるパターンがあります。ま、東大に限ったことではありませんが……。

 そして3番目は、「深く学びすぎるから」。意外かもしれませんが、この試験は前述したように相対評価です。ですから、基本的には皆と同じ内容をインプットすれば合格します。そこに、深い知識を求めて勉強すると、他の医学生と選ぶ選択肢が異なってくることがあり、そうすると不正解になってしまうことがあるのです(医師国家試験には記述問題がなく全て選択問題です)。東大卒医師によると、「東大医学部生の中には医師向けの治療ガイドラインや英文論文まで読んで学ぶ人がいる。そういう人が時々落ちる」そう。これはつまり、出題された問題の答え(=その分野の医師の常識)と最新の医学論文はときどき相反する結果になることがあることを意味します。

 最新の医学論文は正しいこともありますし、数年後に否定されることもあります。ですので、最新の情報「だけを」鵜呑みにするのは、試験対策としてもダメですし、現場に出てからももちろん不十分です。これまでの医学常識には、それなりの理由と実績があるということです。こういう学生さんたちはより努力をしているのですから、可哀想な気もしますが……。

1日15時間、勉強した思い出

 では、私が受けた頃の話を。私が国家試験を受けたのは11年前のこと。第101回でした。

私が受けた時は、母校の鹿児島大学と熊本大学の2校が同じ会場でした。試験の2日前に熊本入りし、みんなでホテルに泊まったのを覚えています。しかし、よくまあこんな写真を撮ったなあ……
私が受けた時は、母校の鹿児島大学と熊本大学の2校が同じ会場でした。試験の2日前に熊本入りし、みんなでホテルに泊まったのを覚えています。しかし、よくまあこんな写真を撮ったなあ……
医学部6年生、26歳のわたし。試験会場で「試験直前の顔を撮っておけば、いつか見返して面白いかも」と自撮りしたのでした。半年くらいカンヅメで勉強したので、10kgくらい体重が増えたのを覚えています
医学部6年生、26歳のわたし。試験会場で「試験直前の顔を撮っておけば、いつか見返して面白いかも」と自撮りしたのでした。半年くらいカンヅメで勉強したので、10kgくらい体重が増えたのを覚えています

 戦前からある試験なのですね。鹿児島大学の医学部生だった私は、サッカー部に所属し、週5日は1日3時間ボールを蹴っていました。医学部5年生になりましたが、特に周りの学生達の雰囲気は変わらず。真面目な学生はずっと勉強していますし、部活に入っている学生(6割ほどでした)は部活に精を出していました。5年生が終わる2月~3月。この頃になると多くの学生が国家試験の勉強を始めていました。

 「そんな早いと息切れするよ」。そう思っていた私は、やっぱり週5日ボールを蹴っていました。そして医学部6年生になると、8~9割の学生が勉強を始めていました。あ、これはまずい……そう思いましたが、まだサッカーをやっていました。夏に医学生だけの体育大会があるので、それに向けて気合を入れていたのです。8月初めの大会「西日本医科学生体育大会」に出場し、鮮やかに敗退してから、私の受験勉強は始まりました。周りを見渡すと、ほぼ全員が毎日大学に集い、「自習室」なるところで勉強をしています。自習室とは、学生が8~10人グループを作り、大学側から部屋を提供されて勉強する部屋です。私もこの頃には毎日自習室にこもりました。8時から25時まで、休憩を抜いて1日15時間ほどは勉強していたでしょうか。

 秋になり、私の大学では11月に「卒業試験」がありました。国家試験と似た形式ですが、国家試験より難易度が高い試験です。これに合格せねば国家試験の受験資格がありませんので、みな必死でした。100人中70人くらいが一発で合格する中、なんとかそこに潜り込んだ私。それからまた1日15時間の勉強で2月の国家試験を迎えました。受けてみると、結果はラクに合格。後で点数が送られてくるので分かります。

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