医師には医師にしかできない仕事をさせよ

 なぜ医者は忙しいのでしょうか。

 臨床医を11年やってきた私なりの意見を述べさせていただければ、「医師以外の人でもできる業務が多すぎるから」に他なりません。

 その例を挙げれば枚挙にいとまがありませんが、例えば「点滴」という医療行為。ひと昔前は点滴の管を患者さんに入れるのは医師だけに許される行為でした。点滴の管を入れるのは、採血という行為と安全性や技術の上でほとんど変わりありません。しかし、「病院の決まり」という理由のもとに、私が働いていた病院では点滴のたびに研修医が呼ばれていました。1日7~8回は呼ばれるため、手術にも入れず重要な治療にも参加できず、研修医としてのトレーニングができなかったのです。

 焦った私は、2カ月だけ勤務していた消化器内科の部長に直訴しました。「研修医は点滴当番と言われているが、これでは内視鏡の勉強もできず、エコー検査や他の検査もできるようにならない。なんとかならないのか」と。今でもよく覚えておりますが、部長は困った顔をし、代わりに隣にいたモグラのような顔の中堅医師が「研修医が偉そうなこと言ってるんじゃない、それは研修医の義務だ」と私を一喝したのです。

 仕方なく引き下がったのですが、当時田舎の街の病院に勤めていた大学医学部時代の友人に聞くと「え、点滴なんて全部ナースがやってるよ、当たり前じゃん」と。私は絶句し、他の大学病院に勤めた友人にも尋ねました。「いや、こちらは点滴どころか、夜中に患者さんに使いたい薬を院内薬局に取りに行くのも研修医の仕事だよ、お前が羨ましいよ」とのこと。薬を取りに行くのが医者の業務なのか……そう思った私はやっぱり絶句しました。

 病院によって「ルール」とやらが違いすぎ、こんなことになっていました。今ではマシになったそうですが、こういったローカルルールは今でもまだよく聞く話です。特に大学病院は「あっちのものをこっちへ持ってくる」ような、医師免許の不要な単純作業が多いと聞きます。ちなみに、私のエピソードの病院はある時突然「ルールが変わった」とおふれがあり、今ではナースが点滴をほぼ全てやるようになっています。

より多くの患者さんを診たい

 こんな風にして、医者の業務は実に無駄が多くなっています。この業界には、まだ効率化できるところは多々あるでしょう。いえ、効率化なんてかっこいいものではなく、もっともっと原始的な話なのかもしれません。

 医者が紹介状の返事を書いていて「ええと、この先生のお名前の漢字は難しいなあ、ソウ、ソウ、全然ないなあ」なんて延々漢字を検索していたり、「手書きのみ」と指定された保険会社の書類(会社によって全てフォーマットは異なります)にカルテを見ながら記入していたり、そんな涙が出そうなシーンが多いのです。医者は「この血管を切ったらこの臓器は腐るかどうか」「この人の腹を切るかどうか」など非常に難しい問いの答えを探る一方で、かなり単純な作業もたくさん行っているのです。

 私は若手医師のころ、そういうのを見るにつけ「会社の玄関の掃除が忙しくて、役員会議に遅刻する代表取締役社長」をイメージしていました。玄関の掃除は他の人に任せて、会社の重要事項の議論に関わるべきなのが社長です。そういう意味で、こんな妄想をついしてしまいました。

 こんなことを書くと「医者はそんなにエライのか」とご批判をいただくこともあります。が、私がもし病院経営者だったら、医者は医業に集中させ患者さんをたくさん診療してもらいます。秘書をつけ、医者にしかできない業務以外は秘書にやってもらい、より患者さんを多く診てもらいます。それが病院経営上、もっとも効率がいいのです。ちなみに私の病院は秘書さんなどがたくさんおり、書類仕事もかなり手助けをしていただいています。

 他にも、医者の勤務時間が長い理由はいくつもあります。が、長くなってしまいましたので今回はこの辺で。