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 この状況の中で、フランス政府およびルノーとしては、虎の子の日産をコントロールする上でのゴーン氏という「扇の要」を失ったわけですから、日産に対するコントロールをより強化しようと考えるのではないでしょうか。

仏政府やルノーが日産支配をあきらめることはない

 この問題で最も重要なのは、フランス政府が最終的に何をしたいのか、という点です。

 日産が持つ技術や販売網がルノーにとって役立つだけではありません。もちろん、フランス政府としては、環境問題やドイツへの対抗意識もあり、EV(電気自動車)化を強力に進めたいでしょうから、EVに強みを持つ日産の技術が欲しいのは明らかです。さらに、フランス政府が狙っているのは、ルノー・日産・三菱自連合の生産拠点をもっとフランスに移管させることでしょう。そうすれば、フランスに雇用も生まれ、それでなくとも、支持率が低迷しているマクロン政権の得点にもなるからです。

 有価証券報告書によると、18年3月期の日産の生産台数は日本が98万5541台。欧州では、英国が48万7269台、スペインが9万8579台となっています。

 続いて販売実績を見ますと、日本国内は56万4264台。欧州は79万2641台。日本は輸出超過で欧州は輸入超過ということです。

 米国など他の地域での生産や車種の構成など複数の条件がありますので単純には言えませんが、数字からみると、日産が日本での生産を欧州に移すことは不自然なことではありません。その場合、日産の欧州拠点だけでなく、ルノーの欧州拠点を活用すれば、ルノーとしては工場の効率が上がりますし、技術的なノウハウなども得ることができます。また、EU離脱の問題もあり、日産の英国での生産をフランスに移す可能性もあります。

 もう一つ注目すべきことがあります。先にも触れましたように、ルノーは日産の株式の43.7%を保有しているという点です。

 18年3月期の日産の1株あたり配当額は53円。ルノーの保有株式数は18億3183万7000株ですから、単純計算で約970億円の配当を受け取っていることになります。

 つまり、ルノーやその大株主であるフランス政府にとって、日産は「虎の子」であるということです。日産のコントロールをやめるなど、絶対にあり得ないでしょう。

 フランスのあるメディアは、今回の件を「明智光秀」と揶揄していました。クーデターを起こした人物は責任を追及されれば済む話ですが、これをきっかけにルノーの支配が強まり、日本の雇用まで奪われたら、結局日産にとって益はありません。

 私は講演会で経営者の人たちに、よくこんな話をします。「恨み辛みで物事を判断すると、ろくなことがない」。本来であれば、東京地検に告発する前に、ゴーン氏と直接対話すべきだったと思います。しかし、日産幹部はそうはしなかった。それだけ怨みが大きかったのか、カリスマ的な存在であるゴーン氏と向き合うことが怖かったのでしょうか。

日産幹部らに焦りと先行き不安があったか

 今年の初めあたりから、フランス政府がルノーに対し、「日産へのコントロールを強化せよ」と要請していたと報じられています。ゴーン氏としては、そこまで支配を強めようとは考えていなかったかもしれませんが、フランス政府の意向は無視できなかったのでしょう。

 日産は元々内部志向の強い会社です。役員の経歴を見ますと、日産側のほとんどがプロパー。つまり、実質的にこの会社を動かしている人たちは、プロパーばかりなのです。他社や世の中を日産の目からしか見ていないのです。

 その点を考えても、他社の常識を受け入れにくい状況だったのではないかと思います。このままでは、自分たちの権限も失われ、日本の雇用や生産も奪われてしまう。そういった危機感から、今回のクーデターが起こったのではないでしょうか。

 しかし、繰り返しますが、私はこのクーデターは失敗だったのではないかと考えています。ゴーン氏の不正に対する疑義という尻尾をつかんだ状態で彼と対話をし、これ以上、ルノーによる支配を強めないようにゴーン氏を要として交渉して決着することが、顧客、従業員、株主にとって、最良のシナリオだったのではないでしょうか。