「米国ファースト」で最も得をするのは、やはり米国

 一方で、米中貿易戦争によって最も得をするのはどこでしょうか。それは、米国です。もちろん、米国も中国から輸入するモノの値段が関税分だけ上がりますから、企業にとっては原材料費の増加、消費者もその分の値上げの影響を受けます。短期的には、良いことはあまりありません。しかし、長期的には大きなメリットがあるのです。

 先ほども触れましたが、米国のモノの貿易赤字は7962億ドルという膨大な額です。サービス収支の黒字分をそれに加味しても5827億ドルの赤字です。一般に貿易赤字が大きい国の通貨は下落しやすいはずですが、米ドルは暴落していません。なぜでしょうか。

 答えは、米ドルが「基軸通貨」だからです。時々、専門家が「米国は、米ドルという紙を輸出して世界中からモノを買っている」と揶揄していますが、それは米ドルが最も信用のある通貨として世界中で流通しているからこそ可能なのです。

 しかし、この構図がいつまでも続くとは限りません。19世紀半ば以降、英国のポンドが世界の基軸通貨でした。ところが、第一次世界大戦で欧州経済が疲弊したことから、基軸通貨は米ドルに取って代わられました。

 同じように、米ドルが将来的に基軸通貨の座から下りる可能性はゼロではありません。もし、このまま中国が経済成長を続ければ、いずれは中国のGDPが米国を抜くこととなり、人民元が次世代の基軸通貨になるかもしれません。

 もちろん、今のような為替管理をしている状況では基軸通貨にはなれませんが、おそらく中国は人民元が基軸通貨となることを狙っているでしょう。「一帯一路」政策を進める目的の一つにも含まれていると考えられます。

 その裏付けになりそうな動きもあります。アフリカ諸国では、米国よりも中国からの経済支援を歓迎しているというのです。米国がアフリカ諸国に資金援助をする場合、人権問題について注文をつける傾向がありますが、中国は内政問題に干渉しないからです。為政者にとってうるさい米国より中国からの援助を積極的に受け入れるようになります。この傾向が拡大すると、人民元が基軸通貨に近づく後押しになるでしょう。

 では、人民元の勢いを止めるには、どうすればいいか。

中国経済の力を弱めることが最も効果的です。トランプ大統領がそこまで考えているかどうかは分かりませんが、米国ファーストは、捉え方によっては米ドルの基軸通貨の地位をできる限り長く守るための有効な策とも考えられるのです。

軍事的、経済的、政治的に中国を弱めるための政策

 もう一つ、忘れてはならないのは、米中の間には軍事的な対立もあるということです。ここで中国経済を弱めておけば、米国は軍事的な優位性をも維持することができます。

 米国にとっては、軍事的、政治的、経済的に考えると、米中貿易戦争で多少の経済的損失はあったとしても自国の覇権を守る方が大きなメリットがあります。特に、米ドルが基軸通貨の地位を維持できる期間が長くなれば、その意義は非常に大きいと言えます。

 今、トランプ大統領が欲するものは、お金ではありません。すでに経済人として成功しています。では、何を見据えているかと言えば、「名誉」ではないでしょうか。政治家として、米国大統領として、自国が将来的に成長していくためにはどうすべきか。彼はこの点を最も重視しているのではないかと思います。