買掛金による短期ファイナンスが業界の特徴

 日本調剤の話に戻りますが、調剤業界にはある特徴があります。

 それは、業界独特のファイナンス手法にあります。2018年6月末時点の貸借対照表を見てみましょう。まず、「資産の部」の「現金及び預金」は345億円あります。

 この金額が十分かどうかを調べるために「手元流動性(現預金÷月商)」を計算しますと、約1.7カ月分となります。大企業ですと、通常では約1カ月分あれば問題ないと考えられるので、日本調剤は潤沢な現預金を持っていると言えるでしょう。

 ここからが重要です。受取手形は3億円、売掛金は188億円計上されています。合計で約191億円です。

 続いて、「負債の部」から「買掛金」を見ると、462億円計上されています。売掛金の倍以上の買掛金があるということです。薬局は、薬を卸売業者から仕入れます。薬局と卸売業者との力関係は、薬局の方が圧倒的に強い。それを背景に、買掛金で短期的なファイナンスをつけているのです。これが、業界の特色です。

 2018年6月時点での自己資本比率を見ると21.0%と、それほど高くはありませんが中長期的な安全性に問題はありません。そして、短期的にも安全性が高いのは、こうした理由からなのです。

 余談ですが、調剤薬局業界は薬の売価と仕入れ値との差額(薬価差)も利益となりますが、仕入れ値を決めるのもその期が始まってから卸売業者と交渉する場合も多く、期中の決算などは、「暫定価」と呼ばれる仮置きの数字で行う場合もあります。

今後は運送業やネット通販が参入する可能性も

 調剤報酬と薬価の改定が業績に影響した調剤薬局ですが、今後の制度変更のリスクはそれだけではありません。米国のように電子処方箋が認められ、さらにデリバリーの自由化が進めば、業績のみならず業界地図までひっくり返る可能性があるのです。

 現在、ドラッグストアや調剤薬局は、駅近や病院付近に展開しています。薬剤の価格は政府が定めていますから、患者さんから見ると差がありません。どこに優位性を求めるかと言えば、「立地」です。病院から駐車場に行くまでの道中、あるいはバス停までの区間、駅近などのアクセスのよい場所などに店舗を確保できるかどうかが勝敗を決めるのです。

 しかし、電子処方箋が導入され、医薬品のデリバリーの自由化が進めば、ネット通販や運送業者が調剤業に参入してくる可能性があるでしょう。そうなると、せっかくの好立地も現状ほどの優位性を維持できなくなる可能性があります。

 私は、この先参入を狙う企業はヤマト運輸などの宅配業者ではないかと考えています。たとえば、ヤマト運輸は運送業の他、家電製品の修理サービスを行っています。集配センターに故障した家電製品を集め、修理をして宅配する。すでに大規模な運送システムがあるからこそ、展開しやすかったのです。

 現在、処方された薬は薬剤師が直接利用者に渡さなければならないというルールがあります。しかし、もしデリバリーの規制が緩和されるようなことがあれば、ヤマト運輸が調剤センターを作りそこで薬剤師が電子処方箋を受け取り、それを自前の配送網で配送する調剤事業を始めることも可能です。あるいは、アマゾンなどのネット通販が参入する可能性もあります。

 繰り返しますが、政府は今、医療費全般を抑制しようとしています。現在、薬剤師が一人あたり一日に処理する処方箋の上限は40枚とされていますが、こちらも今後、調剤助手を使うなどすることで、緩和されてゆく可能性があります。

 以上の規制緩和が進めば、調剤薬局や調剤を行うドラッグストアの勢力図ががらりと変わることも十分あり得る話です。私は、その可能性は低くないと見ています。これまで調剤薬局は、好立地の獲得に莫大な投資をしてきましたが、今後はそういった傾向も変わっていくのではないかと思います。業績のみならず、政府の規制緩和の行方にも注目です。