今年4月1日、医薬品価格の大幅な引き下げを主軸とする薬価(国が定める医薬品の公定価格)や調剤報酬の改定が行われました。これによって、国内医薬品市場は約7200億円縮小すると言われており、早くも製薬会社や調剤薬局の業績に影響が出始めているようです。この業界は、政府の打ち出す政策によって業績から勢力図までがらりと変わってしまうリスクを抱えているのです。

 薬価改定は、現状では通常は2年に1度行われていますが、来年度も行われる予定で、2021年度からは毎年実施されるようになります。高齢化がますます進むことで社会保障費が膨張し、かつ財政事情が大変厳しい中で、薬剤費や調剤報酬の抑制を行わざるを得ません。医薬品業界はますます厳しい状況に立たされるでしょう。

 しかし、問題は薬価改定だけではありません。調剤業界が抱える制度的リスクはほかにもあります。今回は、日本調剤とスギホールディングスの業績を分析した上で、今後想定しうるリスクを考えます。

(写真:PIXTA)
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医療費抑制のため、調剤報酬・薬価の引き下げが実施された

 高齢化が急速に進む中、日本では医療費の膨張は最重要課題となっています。今年度の薬価改定も、医療費に含まれる薬剤費を抑えることが大きな柱です。2018年度の一般会計予算は約98兆円。そのうち約33兆円が社会保障費となっています。この内訳は、年金が約11.7兆円、医療費が約11.6兆円などです。

 医療費は医療保険があるはずだから特別会計で賄っているのではないか、との疑問があるかもしれません。その通りなのですが、一般会計からも11兆円程度を補填しなければ、現状の医療制度を維持できなくなってきているのが現状です。年金も同様です。

 これまで国の政策は、高齢者の増加を受けて、医療サービスの供給量をいかに増やしていくかという点に主眼が置かれていました。しかし、財政の逼迫を受けて、今後は供給の「質」を見直すという方向にシフトしつつあります。

 薬剤に関しても同じことが言えます。医療費が約42兆円まで膨らんでいる中、そのうち調剤医療費は約7.4兆円です。ただし、医師会と薬剤師会との力関係は、医師会の方が圧倒的に強いですから、医療費の中でも薬剤費の削減圧力がより強くかかっているのです。

調剤事業はダイレクトに悪影響を受けている

 薬価の改定は、関連企業にもすでに大きな影響を及ぼしています。まずは、日本調剤の決算内容から見ていきましょう。

 2018年3月期決算を見ますと、売上高は前期比8.0%増の2412億円。営業利益は同24.3%増の105億円となっています。ここまでは好調でした。

 ところが、2018年4~6月期決算は、売上高は前年同期比1.6%増の593億円でしたが、営業利益は同77.1%減の5億円となりました。大幅な減益です。

 日本調剤は、調剤薬局事業が全社売上高の約85%を占めており、ほぼ調剤専業の企業と言えます。そのため、4月に実施された調剤報酬と薬価の改定の影響をダイレクトに受けているのです。

 処方箋調剤や一般薬・化粧品のカウンセリング販売を行うスギホールディングスの業績も見てみましょう。2018年2月期決算は、売上高は前期比6.1%増の4570億円、営業利益は8.4%増の247億円と増収増益でした。それが2018年3~5月決算では、売上高が6.3%増の1196億円に対し、営業利益は4.2%減の62億円となり、増収減益となっています。

 減益の理由は、人件費や物流費の高騰のほか、薬価や調剤報酬の改定も要因として挙げられます。

 ドラッグストア業界は全体的には好調です。もともと好立地に店舗を構えており、最近ではコンビニより安く食料品などを販売し集客力を高め、利益率の高い医薬品を売る。そういったビジネスモデルが、ある程度成功していると言えます。ただし、調剤事業については、薬価や調剤報酬の改定によって厳しくなりつつあるのです。

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