続いて、キャッシュ・フロー計算書から設備投資の状況を見ていきます。「有形固定資産の取得による支出」が130億円計上されているのに対し、「減価償却費」が89億円となっています。
一般的に、減価償却費と同じくらいの設備投資をしなければ、現事業の規模を維持できないと考えられています。マクドナルドの場合は、減価償却費を超える設備投資を行っていますので、積極的に投資をしていると言えます。
伏線は“最悪期”でも続けていた積極投資だった
一時は回復の道筋すら見えないほど落ち込んでいたマクドナルドが、なぜここまでの回復を遂げることができたのでしょうか。私が着目したのは、最悪期である14年12月期と15年12月期の決算内容です。
鶏肉偽装問題、異物混入問題が相次いだ14年12月期を見ますと、売上高は前期比14.6%減の2223億円、営業利益は67億円の赤字。翌年2015年12月期は、売上高は14.8%減の1894億円、営業利益は252億円の赤字。急速に経営が悪化していた様子が読み取れます。
先ほどと同様に売上原価率を計算しますと、15年12月期は100.4%という状態でした。つまり、原価がコントロールできておらず、営業しているだけで損失が出ていたということです。業績的には、まさに危機的状況です。
会社の中長期的な安全性を示す「自己資本比率」は、14年12月期には78.5%あったのが、15年12月期には60.9%まで低下しています。大幅に低下はしたものの、自己資本比率は高い状態でした。
財務内容を見てみましょう。貸借対照表の「資産の部」にある「現金及び預金」は、286億円から203億円まで減少。「負債の部」から短期借入金や長期借入金等の有利子負債の状況を調べますと、14年12月期は5億円の長期借入金が計上されているだけでしたが、15年12月期には合計で約250億円まで膨らんでいます。ネットキャッシュは大幅に悪化したわけです。
借り入れを急速に増やすことでキャッシュポジションを維持せざるを得なくなったほど、業績が悪化していたということが分かります。
しかし、マクドナルド復活につながる注目点はここではありません。ポイントはいくつかあり、一つは、損益計算書にある「販売費及び一般管理費」です。14年12月期は265億円、15年12月期は253億円計上されていますが、これは回復後の17年12月期の266億円とほぼ同じ水準なのです。
つまり、最悪期でも広告宣伝費を削減せず、積極的にアピールを続けていたということです。自己資本比率が非常に高く、財務余力があったからこそできたことではありますが。
それからもう一つ、決定的なポイントがあります。キャッシュ・フロー計算書によると、「減価償却費」が14年12月期は103億円あったのが15年12月期には75億円まで減少しています。店舗等を売却していたためと思われます。
一方、設備投資にあたる「有形固定資産の取得による支出」は14年12月期で123億円、15年12月期に119億円計上されています。業績的にはとてもしんどい時でも、減価償却費を大きく超える設備投資、つまり、事業の現状維持以上の投資をしていたことが分かります。
マクドナルドは、業績が悪化して資金繰りが厳しくなっても設備投資を抑えず、店舗の入れ替え、既存店の改修等への投資を積極的にしていたというわけです。
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