効果はあったが、リスクの方がはるかに大きい
では、異次元緩和は、日本経済にどれだけの効果をもたらしたのでしょうか。日銀が目標としている「消費者物価指数」を見てください。
"消費者物価指数 生鮮除く総合 前年比%" |
"M3増加率 平均残高 前年比%" |
"銀行計貸出残高 前年比%" |
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2013年度 | 0.8 | 3.1 | 2.3 |
2014年度 | 2.8 | 2.7 | 2.5 |
2015年度 | 0.0 | 2.9 | 2.5 |
2016年2月 | 0.0 | 2.5 | 2.2 |
3月 | ▲0.3 | 2.5 | 2.0 |
4月 | ▲0.4 | 2.7 | 2.2 |
5月 | ▲0.4 | 2.8 | 2.2 |
6月 | ▲0.4 | 2.9 | 2.0 |
7月 | ▲0.5 | 2.9 | 2.1 |
8月 | ▲0.5 | 2.8 | 2.0 |
9月 | ▲0.5 | 3.0 | 2.2 |
10月 | ▲0.4 | 3.1 | 2.4 |
11月 | ▲0.4 | 3.3 | 2.4 |
12月 | ▲0.2 | 3.4 | 2.6 |
2017年1月 | 0.1 | 3.4 | 2.6 |
2月 | 0.2 | 3.5 | 2.9 |
3月 | 0.2 | 3.5 | 3.0 |
4月 | 0.3 | 3.4 | 3.0 |
5月 | 0.4 | 3.2 | 3.3 |
6月 | 0.4 | 3.3 | 3.3 |
7月 | ー | 3.4 | 3.4 |
スタート時の13年度は、前年比0.8%。14年度は同比2.8%と大幅に増えています。14年度の増加分のうち2%は消費増税上昇分と日銀は算定していますから実質的には0.8%です。ここまではまずます順調でした。そこからは、大きく状況が狂いました。15年度以降はゼロからマイナスの状況が続き、17年に入ってから若干プラスに転じています。物価目標2%達成までには、依然として遠いと言えますね。
ただし、まったく効果がないとは言えません。「M3増加率」を見てください。M3とは、現金通貨とゆうちょ銀行を含む市中銀行の預金残高を合計したもので、市中にあるお金の量をすべて足し合わせたものと考えてください。
景気が良くなると、M3が増えていきます。企業がお金を借りると、その分がいったん企業の預金口座に振り込まれ、それがさらに貸し出しに回るという循環ができるからです(これを「信用創造」といいます)。
M3増加率は、16年末から上昇しはじめ、17年に入ってからは前年比3.5%前後の水準を保っています。同様に、銀行の貸し出し状況を示す「銀行計貸出残高」も、前年比3%台まで伸びていますね。これは良い傾向です。
ただし、日銀のリスクは高まる一方です。日銀は市場に流通する資金量や政策金利などを調整する役割がありますから、普段でも大体100兆円程度の国債は保有していなければなりませんが、今は必要額を大きく超える400兆円もの国債を持っているわけです。
これによって、いくつかの弊害が生じています。一つは、国債の「玉」、つまり市場で売買される国債の流通量が極端に少なくなり、国債価格が変動しにくくなっていることです。売買注文が来ないため、証券会社の国債ディーラーがクビになるというニュースもありました。金利市場の中核をなす国債市場は健全な状況からほど遠いと言えます。
二つめは、日銀が国債を大量に買うことで金利が低く抑えられ、国債金利で利益を上げている生命保険会社、銀行、証券会社などの収益が悪化したことです。特に地方銀行や信用金庫は、元々貸し出し先が少ないので、国債金利による利益に支えられていました。それが大幅に減ってしまったことで、業績が大変厳しくなっています。また、必要以上の低金利は、預貯金の保有者である、とくに高齢者層の金利収入を大幅に減少させています。(これは当然のことながら、消費にも悪影響を及ぼします。)
三つめが、近い将来、日銀のリスクがクローズアップされる可能性が低くないということです。これはとても深刻な問題です。
すでに米国では、政策金利を15年12月から引き上げ始め、現在1~1.25%に誘導しています。米連邦準備理事会(FRB)は、年内にもう一度利上げをするのではないかとも言われており、量的緩和についても、早ければ9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で縮小(テーパリング)を決める可能性があります。
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