2013年4月、日銀の黒田東彦総裁は、およそ15年にわたるデフレから脱却するために「異次元緩和」を発表しました。「135兆円のマネタリーベースを2年間で倍にする」。日銀が直接コントロールできるお金の量であるマネタリーベース(後で説明)を倍増するという前代未聞の政策は、世界中に大きなインパクトを与え、その直後に急速な円安株高が進みました。
ところが、その効果も一時的でした。あれから約4年半が経とうとしていますが、目標だった2%の物価上昇の達成にはほど遠い状況です。2年で終わるはずの異次元緩和はさらに規模を拡大し、ついに今年6月末には、日銀の総資産が500兆円を超えたと報じられました。
異次元緩和は、日本経済にどれだけの効果をもたらしたのでしょうか。私は、そろそろ日銀はこれまでの金融政策を検証し、出口を探るべきだと思います。今回は、景気指標から異次元緩和の効果を分析した上で、これから起こりうる問題やリスクを考えます。

日銀のリスク(不確実性)は拡大し続けている
はじめに、これまでの経緯を振り返ってみましょう。2012年12月の総選挙で、自民党が当時政権を握っていた民主党に圧勝し、安倍政権が発足しました。その翌年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任。4月4日の金融政策決定会合で、「異次元の金融緩和」がスタートしました。
異次元緩和とは、具体的にどんなことをするのでしょうか。最も大きな政策は、日銀券と日銀当座預金(金融機関が日銀に持つ当座預金)の合計である「マネタリーベース」を、2年後の2015年3月までに2倍に増やすというものでした。
当時の日銀券残高は約85兆円、日銀当座預金残高は約50兆円、合計135兆円を、270兆円まで膨らませるということです。経済規模に比べてそのような大規模な量的緩和をやった国は、どこにもありません。中央銀行が負うリスクが、あまりにも大きいからです。
発表翌日である4月5日付けの日経新聞朝刊1面に、「黒田日銀、デフレ脱却へ戻れぬ賭け」という記事が大きく出ていたのをよく覚えています。まさに日銀は、「賭け」とも言える後戻りできない政策を打ち出したのです。
ところが、それだけ大規模な金融緩和を行っても、目標である「物価2%」の達成は見通せませんでした。そこで日銀は、2014年10月末に、国債などの買い入れ資産を年80兆円まで拡大する2度目の異次元緩和を発表。さらには、16年2月に、日銀当座預金の一部にマイナス金利を付与する「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入しました。
マネタリーベース(平均残高 前年比%) | |
---|---|
2013年度 | 44.0 |
2014年度 | 39.3 |
2015年度 | 32.1 |
2016年2月 | 29.0 |
3月 | 28.5 |
4月 | 26.8 |
5月 | 25.5 |
6月 | 25.4 |
7月 | 24.7 |
8月 | 24.2 |
9月 | 22.7 |
10月 | 22.1 |
11月 | 21.5 |
12月 | 23.1 |
2017年1月 | 22.6 |
2月 | 21.4 |
3月 | 20.3 |
4月 | 19.8 |
5月 | 19.4 |
6月 | 17.0 |
7月 | 15.6 |
マネタリーベースの推移を見ますと、異次元緩和がスタートした13年度以降、大幅に増え続けていることが分かります。徐々に伸び率は縮小しつつありますが、それは分母が大きくなっているからで、17年に入ってからでも前年比20%前後の水準を維持しています。マネタリーベースの絶対額はどんどん増えているのです。スタート時は135兆円だったのが、現在は400兆円をゆうに超えています。主に市中に出回る国債などを買い取り、その代わりお金を日銀当座預金に振り込むことでマネタリーベースが「膨張」しているからです。
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